岡山大学・津田敏秀教授 日本外国特派員協会での記者会見の動画と読み上げ原稿


2015年10月8日に、岡山大学の津田敏秀教授が、日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を行った。米国時間の2015年10月6日午後に、国際環境疫学会(International Society for Environmental Epidemiology)が発行する医学雑誌「Epidemiology(エピデミオロジー)」に福島県民健康調査・甲状腺検査1巡目の結果を疫学的に分析した論文オンラインで先行発表されたので、その論文の内容を説明し、質疑応答を行った。下記に、記者会見告知の和訳、記者会見動画(日本語、英語通訳)、そして会場で英語版が配布された、記者会見の読み上げ原稿の日本語原文(津田氏の許可あり)を掲載する。会見では、実際の読み上げ原稿よりも詳細な説明がされており、スライドを見せながらのミニ・レクチャーも展開されたので、ぜひ、動画の視聴をお勧めする。なお、同内容の英文記事はこちらである。

FCCJウェブサイトの会見告知の和訳

福島第一原子力発電所のトリプル・メルトダウンから約5年が過ぎようとしている今、注目されているのは、放射線被ばくが周辺住民、特に子どもに及ぼし得る長期的な健康影響である。

福島県では、事故当時18 歳以下だったおよそ370,000 人の子どもたちを対象に、大規模の甲状腺超音波スクリーニング検査が行われている。

福島県での小児甲状腺がんの発見率が事故前の発症率よりはるかに高いにも関わらず、福島県の医療当局と日本政府は、その原因は福島事故ではないと主張している。

事故直後に何万人もの住民が避難したこと、そして、福島県で生産された牛乳や他の農産物の販売が禁止されたことがその理由として挙げられている。当局は、国際的に著名な専門家らの支持のもと、甲状腺がんの発症率の増加は、福島県の子どもたちの検査に用いられている超音波機器の精度が高いためであると主張している。

しかしこの主張への大きな反論として、岡山大学・環境疫学教授の津田敏秀氏は、福島で起きている小児甲状腺がんの過剰発生が単なるスクリーニング効果ではなく、放射線被ばくの結果であると述べている。

津田氏の論文は、国際環境疫学会が発行する医学雑誌「Epidemiology(エピデミオロジー)」に今月掲載される予定で、津田氏は10 月8 日に FCCJ で記者会見を行い、研究結果について説明し、質問に答えることになっている。

津田氏は、疫学と環境医学の専門家として、水俣病をはじめ、大阪西淀川大気汚染訴訟、じん肺患者における肺がん認定など、数々の健康や環境汚染の調査に尽力してきた。


会見動画



1.はじめに

 2011 年3 月の東日本大震災後の福島第一原子力発電所事故を受けて、2011 年度10 月から事故当時18 歳以下だった福島県民全員を対象に、甲状腺スクリーニング検査が行われています。2011 年度から2013 年度にかけて1 巡目(先行検査)が終了し、現在、2014 年度から2015 年度にかけての2 巡目(本格検査)が行われています。これらの検査結果は、2013 年2 月以降、日本語と英語の両方で福島県のホームページ上に公表されています。しかし、発表データについて疫学的な分析が行われていないため、因果推論や公衆衛生学的・臨床的対策立案、将来予測および住民への情報公開を行うためには、極めて不十分な状態が続いています。
 今回、岡山大学のグループは、疫学における標準的な手法を用いて、発表データを解析し、その結果を国際環境疫学会の学会誌であるEpidemiology に論文を投稿し受理されました。その論文がOPEN ACCESS として学術誌発行に先行してインターネット上で一般公開されましたのでご報告いたします。
お手元に、今日、掲載されました論文を配付してございますので、そちらをご覧ください。

論文名:"Thyroid Cancer Detection by Ultrasound among Residents Aged 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014" 
PDFリンクhttp://journals.lww.com/epidem/Abstract/publishahead/Thyroid_Cancer_Detection_by_Ultrasound_Among.99115.aspx#
著者:岡山大学大学院環境生命科学研究科・津田敏秀、同医歯薬学総合研究科・鈴木越治、時信亜希子、岡山理科大学総合情報学部・山本英二
発行誌:「Epidemiology 第26 巻」2016 年3 月発行
発行元:Wolters Kluwer Health, Inc. (http://www.epidem.com) 国際環境疫学会 ISEE

【概要】
背景:2011 年3 月の東日本大震災の後、放射性物質が福島第一原子力発電所から放出され、その結果として曝露した住民に甲状腺がんの過剰発生が起こるかどうかの関心が高まっていた。

方法:放射性物質の放出後、福島県は、18 歳以下の全県民を対象に、超音波エコーを用いた甲状腺スクリーニング検査を実施した。第1 巡目のスクリーニングは、2014 年12 月31 日までに298,577 名が受診し、第2 巡目のスクリーニングも2014 年4 月に始まった。我々は、日本全体の年間発生率と福島県内の比較対照地域の発生率を用いた比較により、この福島県による第1 巡目と第2 巡目の2014 年12 月31 日時点までの結果を分析した。

結果:最も高い発生率比 (IRR) を示したのは、日本全国の年間発生率と比較して潜伏期間を4 年とした時に、福島県中通りの中部(福島市の南方、郡山市の北方に位置する市町村)で、50 倍(95%信頼区間:25 倍-90 倍)であった。スクリーニングの受診者に占める甲状腺がんの有病割合は100 万人あたり605人(95%信頼区間:302 人-1,082 人)であり、福島県内の比較対照地域との比較で得られる有病オッズ比 (POR) は、2.6 倍(95%信頼区間:0.99-7.0)であった。2 巡目のスクリーニングでは、まだ診断が確定していない残りの受診者には全て甲状腺がんが検出されないという仮定の下で、すでに12 倍(95%信頼区間:5.1-23)という発生率比が観察されている。

結論:福島県における小児および青少年においては、甲状腺がんの過剰発生が超音波診断によりすでに検出されている。


2.論文掲載の意義とスクリーニング効果と過剰診断説の問題

 この分析により、福島県内では、事故後 3 年目以内に数十倍のオーダーで事故当時18 歳以下であった県民において甲状腺がんが多発しており、それはスクリーニング効果や過剰 診断などの放射線被ばく以外の原因で説明するのは不可能であることが分かりました。これまでの議論から拝察しますと、スクリーニング効果というのは「後にがんとして臨床的に診断されるいわば『本当のがん』がスクリーニングにより2-3 年早く見つかること」で、過剰診断というのは、「一生がんとして臨床的に診断されることのないがん細胞の塊、いわば『偽りのがん』がスクリーニングによりがんとして検出されてしまうこと」のようです。多くの議論はこの2 者が区別されずに単に「スクリーニング効果」として主に後者を
意識されて呼ばれているようです。
 私たちの分析によると、2013 年2 月末に発表されたWHO 報告書「東日本大震災後の原子力事故後の健康リスクアセスメント」に示された事故後15年間における甲状腺がんのリスク上昇予測のペースを、2014 年末時点で、すでに大幅に上回っていることも分かります。また、チェルノブイリ事故後の翌年の1987 年には甲状腺がんの多発傾向がすでに観察されていましたが、超音波検査によるスクリーニング検査を行うことにより、事故1 年以内でもがんの多発を検出できることが分かりました。
 以下では、なぜスクリーニング効果と過剰診断による甲状腺がんの過剰検出の説明が成り立たないのかについて説明いたします。
 まず、私たちの分析によると、多発している甲状腺がんの罹患率は、事故前の割合に比べ20-50 倍と推定されます。これは従来報告されている放射線被ばく以外の要因による甲状腺がんの多発状況と 比べ、1 桁多いものです。一般的に、スクリーニング効果と一般に呼ばれる効果は、甲状腺がんを含めすべてのがんにおいて、スクリーニングを実施しない場合のデータと比較した場合、せいぜい数倍規模のものです。桁が違う多発を、他の要因で全て説明することは全く不可能です。
 次に、このような大規模な検診、特に先行検査と呼ばれる曝露影響があまりないであろうと想定されている集団のスクリーニング検査とその追跡検査は、世界で前例がないと言われていますが、チェルノブイリ周辺では、事故後に受胎し誕生した小児・青少年や比較的低曝露であった地域の小児・青少年に超音波エコーを用いた甲状腺スクリーニング検査が行われ、その結果が論文として報告されています。合計で47,203 人がスクリーニング検査されていますが、がんは一人も見つかっていません。福島県のスクリーニング検査とは年齢層がやや異なるものの、5mm の結節を検出する性能において、今の超音波エコーと当時の超音波エコーに違いがあるといったことでは、この結果は全く説明できません。



 さらに、福島県内でばらついているがんの検出割合(有病割合)もまた、スクリーニング効果や過剰診断では説明できません。また、2 巡目のスクリーニングの検査の結果が出始めていますが、大きな過小評価が起こる条件で分析をしても、すでに20 倍近くの多発が認められています。2015 年8 月31 日に発表されたデータを地域・地区別に分析しますと、すでに1 巡目の多発を上回り始めている地域・地区があることも分かります。スクリーニング効果や過剰診断の影響は1 巡目でほとんど刈り取られている(harvest 効果)はずですので、この点からも、事故による放射線被ばくによる影響が、すでに福島県内で出ていることが言えると思います。
 なお過剰診断に加え、過剰治療という主張も聞かれますが、福島県立医大で行われた甲状腺がんの手術後データを見ますと、手術が早すぎた、あるいは過剰な手術が行われているという証拠は経過観察という選択肢がありながら、患者もしくはそのご家族が自主的に手術を決断された3 例以外には今のところ特には見当たらず、むしろ手術されたがんの進行の早さがうかがえます。福島県立医科大学の鈴木眞一教授が2015 年8 月31 日に発表された、「手術の適応症例」という文書の一部を引用します。
 
「外科手術を施行した104 例中97 名が福島医大甲状腺内分泌外科で、7 例は他施設で実施された。また、97 例中1例は術後良性結節と判明したため甲状腺癌96 例につき検討した。病理結果は93 例が乳頭癌、3 例が低分化癌であった。(中略)術後病理診断では、軽度甲状腺外浸潤のあった14 例を除いた腫瘍径10 ㎜以下は28 例(29%)であった。リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移のないもの(pT1a pN0 M0)は8 例(8%)であった。全症例96 例のうち軽度甲状腺外浸潤pEX1 は38 例(39%)に認め、リンパ節転移は72 例(74%)が陽性であった」


3.国際的な疫学者の見方、反応

 WHO の健康リスクアセスメントをはじめ、事故後の専門家の見方は、甲状腺がんが福島県内で増加するであろうという予測が大勢を占めていました。従いまして、今回の結果に対しては、大きな異論はありませんでした。著者らは、2013 年にバーゼルで、2014 年にシアトルで、そして2015 年にサンパウロにおける国際環境疫学会の総会で、すでに分析結果を随時発表してきました。これに対する反応は、関心は大いに持たれたものの、高すぎるという反応以外には、違和感なく受け入れられてきました。これらの反応を見て私たちは、スクリーニング効果や過剰診療での説明がなされている日本国内と大きなギャップを感じています。


4.公衆衛生の専門家として

 これまで、放射線防護対策らしい対策は、福島県内では避難以外にほとんど語られてきませんでした。従いまして、この結果を受けて提言する事項はたくさんあります。事故後5 年以降に起こると予想される甲状腺がんの本格的多発やその他の予想される事態に備えることを否定する理由は何もありません。今こそ行政は、被曝影響かどうかについての因果関係を論じるより、メディア対応も含め、対策の策定と実行を急ぐべきであると思います。

 具体的にはまず、4 年目以降の多発の可能性に備え、医療資源の点検と装備を充実させるべきでしょう。甲状腺がん手術痕が残らないとされる医用ロボット(ダ・ヴィンチ da Vinci)は福島県立医大にも配置されているようですから、現在健康保険が効かないとはいっても、使用を検討すべきでしょう。
 次に、甲状腺がん症例把握の拡大と充実を図るべきでしょう。その把握の範囲の拡大は、事故当時19 歳以上だった福島県民や、福島県外の住民へも行われなければなりません。
 さらに、超音波エコーを用いたスクリーニング検査のみに頼る現在の症例把握の方法は、年を経ると共に受診者が減少していくことが予想できますので、被ばく者手帳の配備やがん登録の充実などを、医師会の協力も得て行っていくべきでしょう。

 また、WHO の健康リスクアセスメントが多発を予測する白血病・乳がん・その他の固形がんなどの甲状腺以外のがんの症例把握や調査を準備開始すべきでしょう。白血病などの血液系の悪性新生物はすでに最小潜伏期間が過ぎています。また、がん以外の疾患への調査と対策の立案も必要だと思います。
 もちろん、チェルノブイリの甲状腺がん等の発症データの詳細な分析は更に資料を集める必要があるでしょう。また、WHO 予測を上回る甲状腺がんの過剰発生が見られていますので、放射性ヨウ素等の被ばく量の再検討もしていかねばなりません。
 当然、現在、空間線量率20 mSv/年以下の地域に進められている帰還計画は、当分延期すべきです。「100 mSv 以下の被ばくでは被ばくによるがんは発生しない、あるいは発生したとしても分からない」という科学的に間違った言い方に基づいて帰還計画が進められているのであれば、なおさら計画は停止し見直されねばなりません。
 空間線量率はまだままだ高い状態です。今まで、ほとんど論じられてきませんでしたが、年齢別に分けたもう少しきめの細かい対策立案が早急に求められます。つまり、妊婦、乳児、幼児、小児、青年、妊娠可能性のある女性の順で、一時避難計画も含む、いっそうの放射線防護対策の立案と実行が望まれます。

 提言の終わりとして、これまで福島県内では、「原発事故によるがんの多発はない」あるいは「多発があったとしても分からない」というような説明の仕方が一貫してなされてきました。このような言い方は、次の2 つの条件が両方成立することによって成り立ちます。すなわち、①100 mSv 以下の被ばくでは被ばくによるがんが(過剰)発生しない、②福島県内においては100 mSv を超える被ばくはなく100 mSv を遙かに下回る被ばくしかなかった、の2 つの条件です。これが福島県内における、現実的でコストのかからない放射線防護対策が話し合われることを、ほとんど妨げてきました。
 しかし①の条件は、そもそも科学的に誤っており、今日内外の専門家はもう誰もこのようなことを言わなくなっています。そして②の条件は、2013 年のWHO の健康リスクアセスメントの推計の基礎となった2012 年のWHO の線量推計値では、原発の20 km 圏外の住民においても甲状腺等価線量は100 mSv を超えています。そして今回の分析では、WHO の健康リスクアセスメントの15 年甲状腺がんリスクを大きく上回ると思われる結果が示されました。
 しかし、まだ原発事故から4 年半しか経っていないのです。放射線による甲状腺がんの発生に関する平均潜伏期間やチェルノブイリでの甲状腺がんの過剰発生の年次推移のデータを見ても、これから甲状腺がんは、これまでの10-20 倍規模で毎年発生する可能性が大きいのです。このような状況の中で、これまでの行政の説明を早く修正しないと、さらに行政への信頼は失われ、その結果、現実への対応や対策に支障を来しかねません。私どもの研究が、今後のことを考えて、行政のアナウンスや対策立案を見直すきっかけになるのではないかと考えています。このままでは、ますます不安や不信、風評被害を増幅するだけになると思います。

ランセット・ヘマトロジー誌に掲載された論文「放射線モニタリングを受けた作業者(INWORKS)における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」の部分和訳とフェアリー氏解説


低線量の放射線でも白血病リスクが上昇する、と最近話題になっている新研究がある。英医学誌「ランセット・ヘマトロジー」に掲載された、"Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study"(邦題仮訳「放射線モニタリングを受けた作業者(INWORKS)における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」)である。

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2015年7月2日掲載の共同通信の記事「放射線低線量でも白血病リスク 欧米作業員30万人を疫学調査」

ここでは、この論文の一部(「要旨」と「研究のコンテクスト」)および、英国のイアン・フェアリー氏による解説の和訳を記す。
 
「放射線モニタリングを受けた作業者(INWORKS)における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」

要旨

背景:職業的、環境的、および診断医療の状況下で典型的に見られるような、間欠的あるいは長期におよぶ低線量放射線被ばくにおける白血病とリンパ腫のリスクには、大きな不確実性がある。われわれは、長期にわたる低線量放射線被ばくと、フランス、英国と米国で雇用されている放射線モニタリングを受けた成人における、白血病、リンパ腫と多発性骨髄腫の死亡率との間の関連性を定量化した。

方法:フランスの原子力・新エネルギー庁、 アレヴァ原子燃料部門、またはフランス電力会社、米国のエネルギー省と防衛省、そして英国の放射線業務従事者登録に含まれている原子力産業作業者で、最低1年間雇用され、被ばく線量の個人モニタリングをされた308,297人の作業者のコホートを構築した。コホートは、計8,220,000人・年に達するまで追跡された。白血病、リンパ腫と多発性骨髄腫による死亡者を確認した。ポアソン回帰を用いて、骨髄吸収線量推計値と白血病とリンパ腫の死亡率との間の関連性を定量化した。

結果:線量は非常に低い率で累積した(平均 年間 1.1 mGy, SD 2〜6)。白血病(慢性リンパ性白血病を除く)による死亡率の過剰相対リスクは1 Gyあたり2.96(90%信頼区間 1.17〜5.21、2年のラグ)だったが、これは最も特に、慢性骨髄性白血病による死亡率と放射線量との関連(過剰相対リスクが1 Gyあたり10.45、90%信頼区間 4.48〜19.65)のためだった。

解釈:この研究は、長期にわたる放射線被ばくと白血病の間の正の関連性についての強力な証拠を提示している。

研究のコンテクスト

この研究以前の証拠:電離放射線は白血病を引き起こす。放射線防護標準の主な定量的ベースは、高線量の電離放射線への急性被ばくを受けた集団の調査から得られている。原子力作業者の過去の調査では白血病の放射線起因性が考慮されたが、職業的状況における長期におよぶ放射線被ばくによるリスクの大きさについては疑問が残っている。

この研究による付加価値:われわれは、電離放射線への累積された外部被ばくからの長期におよぶ低線量被ばくと、その後の白血病(慢性リンパ性白血病を除く)による死亡との間の正の線量反応関係を報告している。線量単位あたりのリスク係数は、より高い放射線量と線量率に被ばくした他の集団の分析から得られたものと一致している。

資金提供:米国疾病対策センター(CDC)、日本の厚生労働省、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)、アレヴァ社、フランス電力会社、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、米国エネルギー省、米国保健社会福祉省、ノース・カロライナ大学、英国公衆衛生庁

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英国のイアン・フェアリー氏による解説 "Powerful new study shows radiogenic risks of leukemia 50% greater than previously thought"の和訳

有力な新研究により、放射線誘発性の白血病リスクが従来考えられていたよりも50%大きいことが示された。(2015年6月29日)

私は2013年に、非常に低い被ばく線量における放射誘発性リスクの優れた証拠を提示しているいくつかの疫学研究について議論した

この証拠に加わる、有力な新研究[1] が「ランセット血液学」に発表された。しかしいくつかの理由から、この研究の結果は、おそらく過去の研究よりもっと重要でさえある

最初に、著者らが述べているように、この研究は、「低線量放射線によって累積する慢性的な外部被曝と白血病の間の線量反応関係の強力な証拠」を提示している。

 2番目に、この研究では、原子力作業者の間での放射線誘発性の白血病リスクが、これまでに考えられていたよりも50%大きいことがわかった。白血病(慢性リンパ性白血病を除く)の死亡率の過剰相対リスク(ERR)は、 1 Gyあたり2.96だった。2005年に、この研究の著者らの中の数人により行われた、15カ国の原子力作業者における同様の研究[2] では、ERRが1 Gyあたり1.93だった。同じく重要なのは、この新研究の推定リスクが以前のものよりもずっと精度が高いということである。

3番目に、非常に低い線量(平均線量率=年間1.1 mGy)においてさえリスクが確認されている。日本の原爆被爆者研究とは異なり、この研究では、高線量でのリスクから外挿するのではなく、低線量率でのリスクが実際に観察されている。

4番目に、この研究ではリスクが線量率に依存しないことが示されているが、これは、ICRPが、線量・線量率効果係数(DDREF)(訳注:原文では「線量率効果係数、DREF」)という、ICRP自らが公表している放射線リスクを(半分に)低減する係数を使用していることと矛盾している。

5番目に、この研究では、放射線誘発性の白血病リスクが線量に伴い直線的に減少すると示されており、より低い、線形2次関係を示唆した過去の研究と矛盾している。この研究は、放射線誘発性リスクの線形しきい値なし(LNT)モデルを、今や固形がんのみならず、白血病への適用を強く示唆するものである。

6番目に、この研究では、90%信頼区間と片側p値が用いられている。過去には、95%信頼区間と両側p値がしばしば間違って用いられ、統計的有意差の確立を困難にしていた。

同様に重要なのは、申し分のないこの研究の資質である。原子力作業者30万人以上を調べた大研究で、合わせて800万人・年以上にもなり、研究結果が統計的に有意であること、すなわち、偶然起こったものである可能性が非常に低い、ということを保証している。さらにこれは、13人の優秀な科学者らによる国際研究であり、これらの科学者の所属機関は主に、下記にある米国、英国、またフランスの国立健康研究機関が含まれる:
  1. 疾病対策センター(CDC)、米国
  2. 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、米国
  3. 保健社会福祉省、米国
  4. ノース・カロライナ大学、米国
  5. ドレクセル大学公衆衛生学部、米国
  6. 公衆衛生庁、英国
  7. 放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)、フランス
  8. 環境疫学研究センター(CREAL)、スペイン
  9. 国連国際がん研究機関(IARC)、フランス
研究資金は、以下を含む、多くの機関により提供された:米国疾病対策センター(CDC)、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、米国エネルギー省、米国保健社会福祉省、日本の厚生労働省、フランスの放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)、英国公衆衛生庁。

その他の結論

この研究は、知識、経験ともに不足したジャーナリスト(英国記者のジョージ・モンビオット含む) や、放射線リスクは過大評価されており、ましてや放射線は健康に良いとさえ主張する自称科学者の見解に強く反論するものである。ホルミシス効果はこの研究で見つかったわけでも議論されたわけでもなく、そのような見当違いの効果は(もし存在するとしても)、真の科学者によって、考慮に値しないと見なされている。この研究に貢献した科学者らとその所属機関の印象的なリストは、放射線リスクの否定論者に、その見解を再考させるはずである。この研究を多くの米国機関と米国科学者が支持していることを考えると、これは特に、米国の放射線リスク否定論者に言えることである。

著者らは、「現在、放射線防護システムは急性被ばくに由来するモデルに基づいており、より低い線量と線量率では、線量単位あたりの白血病リスクが徐々に減少すると仮定されている。」と辛辣にコメントしており、この研究は、この仮定が間違っていると示している。ゆえに著者らは、WHOやUNSCEARの科学者らと同じく、DDREFは用いられるべきでないという意見である。残された疑問は、ICRPがこの強力な証拠を認め、DDREF使用の支持を捨てるかどうか、である。読者のみなさんは、あまり期待しないほうがいいかもしれない。

この研究から予想されることについて、著者らは興味深いことに、原子力業界での被ばくではなく、医療被ばくについてコメントすることを選んだ。「職業的および環境的な放射線被ばく線源は重大である。しかしながら、このトレンドに最大の貢献をしているのは、医療における放射線被ばくである。1982年時点では、米国での医療被ばくによる電離放射線への年間被ばく線量は1人につき約 0.5 mGyだった。2006年にはそれが 3.0 mGyに増えていた。他の富裕国でも同様のパターンが見られる。英国では、放射線を用いた診断法の使用が同期間で2倍以上に、オーストラリアでは3倍以上になった。電離放射線は発がん物質であるため、医療行為における使用は、患者の被ばくに関連したリスクとのバランスが取られねばならない。」

これはすべて正しい情報であり、そして、1982年から2006年の間に医療被ばく線量が米国では6倍、英国では2倍になったというのは、懸念すべきことである。著者らはさらに、「この知見は、放射線防護の基本原理−−合理的に達成可能な限り防護を最適化すること、そして患者の被ばくに関しては、医療被ばくによる利益が害よりも大きいことを正当化すること−−に従うことの重要性を示している。」と述べている。

もちろん言うまでもなく、原子力産業からの被ばく−−この研究の実際の対象−−にも同じことが当てはまるのである。


参考文献
[1] Leuraud, Klervi et al (2015) Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study. The Lancet Haematology Published Online: 21 June 2015. 
[2] Cardis E et al (2005) Risk of cancer after low doses of ionising radiation: retrospective cohort study in 15 countries. BMJ 2005; 331:77.


この記事を書くにあたり、アルフレッド・ケルプライン博士とキース・ベイヴァーストック教授の考察に感謝する。誤りがあれば私の責任である。



Thyroid誌に投稿された、ウクライナと福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布についてのエディターへの手紙の和訳


2014年10月発行のThyroid誌(米国甲状線学会の機関誌)に掲載されたエディターへの手紙には、山下俊一氏や鈴木眞一氏が共著者として名を連ねている。

この手紙のタイトルは、"Age Distribution of Childhood Thyroid Cancer Patients in Ukraine After Chernobyl and in Fukushima After the TEPCO-Fukushima Daiichi NPP Accident"「チェルノブイリ事故後のウクライナと東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布」で、1ページ足らずの本文と、棒グラフ2つを含む図ひとつにより構成されていた。有料記事ではあるが、共著者の1人がネット上で公表していた。以下は、手紙の日本語訳である。(追記:2016年7月現在は無料公開されている。)



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「チェルノブイリ事故後のウクライナと東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布」
マイコラ・D・トロンコ、ウラジミール・A・サエンコ、ヴィクトル・M・シュパック、テティアナ・I・ボグダノヴァ、鈴木眞一、山下俊一


放射線被ばくを受けた子どもでの甲状腺がんの多発は、1986年4月26日に起きたチェルノブイリ事故による健康影響として世界中で知られている。ウクライナでは1990年以降、甲状腺がんの罹患率の急激な増加が見られており、それ以前の時期は、ベースライン発生率の上昇が有意に見られなかった、いわゆる潜伏期間であった(1)。現時点では、チェルノブイリで潜伏期間中に診断された若年患者の症例は、放射線影響とはみなされていない。


2011年3月に、東京電力福島第一原子力発電所で大規模な原子力事故が発生した。福島県では、長期の低線量放射線の健康影響を調べるために、県民健康管理調査が開始された。その一部である甲状腺超音波検査プログラムは、2011年3月時点で18歳以下だった福島県民約36万人の頸部超音波検査を行なう目的で、2011年10月に始められた。このプログラムでは、2014年2月時点で対象者の約80%が受診し、75例の悪性ないし悪性疑い症例が報告された(2)。これらの症例は、先例のないマス・スクリーニングにおいて、高精度の超音波機器が使われたという、発生率の上昇が避けられない状況で検出された(3)。つまり、甲状腺スクリーニングは、この地理的地域で初めて、スクリーニングを受けたことがない集団において行なわれたのである。34例で手術が行なわれ、病理診断によると、1例が良性結節、1例が低分化甲状腺がん疑い、そして32例が甲状腺乳頭がんであった。これほど高い有病率は予測されていなかったため、専門家と公衆によって広く議論されており、放射線被ばくへの関連の可能性を懸念する声も時々ある。


図1に示されているのは、ウクライナで、潜伏期間中およびそれ以降の最初の数年間に診断された、事故当時18歳以下の甲状腺がん患者と、福島で診断された(事故当時18歳以下の)患者の、被ばく時年齢による分布を示した。チェルノブイリ後のウクライナの潜伏期間中に診断された患者と、福島で診断された患者のグラフの輪郭は、驚くほど似ている。その反面、潜伏期間後に放射線誘発性のがんが発現し始めてからウクライナで診断された患者の年齢分布は、主として異なっている。放射線誘発性の甲状腺がんに最も高いリスクを持つとされている、被ばく時に5歳以下だった多くの人たちが見られているのである。そのような患者は今の所、福島では診断されていない。


われわれの見解では、もしも福島での甲状腺がんが放射線によるものであるとすれば、被ばくした4−5歳の子どもでの症例がもっと予測されたはずである。さらに、福島での甲状腺被ばく線量は、チェルノブイリでよりもはるかに低い(4)。これから先、潜伏期間が過ぎてから現れるかもしれない甲状腺がん症例に関しては、さらなる分析が必要であろう。特に留意すべきことは、甲状腺被ばく線量再構築、被ばく時年齢と診断時年齢、腫瘍の形状(チェルノブイリでは、短い潜伏期間後に発達した小児甲状腺乳頭がんで頻繁に見られたのは、充実性成長パターンだった)、そして、スクリーニング導入後の症例数の上昇である「刈り取り効果」が見られるかどうかである。




図1.ウクライナでの潜伏期間(1986〜1989年)とその後の期間(1990〜1993年)に診断された甲状腺患者と、福島で2011〜2013年に悪性ないし悪性疑いと診断された患者の、被ばく時年齢による分布。棒グラフの上に表示された数字は、その被ばく時年齢における患者数である。異なる集団サイズ、そして異なるスクリーニング・プロトコル、特に福島における、より系統的なアプローチ、集団受診率の高さ、および高性能の超音波機器によるスクリーニングため、この2つの地域での放射能事故の症例数の絶対数を比較することは不適切である。

(和訳、ここまで。本文内文末の括弧内の数字は引用文献番号である。引用文献リストは、元論文を参照のこと。)

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解説:図1の、ウクライナと福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布で比較されている部分を赤線で囲った。この手紙は実質、福島県での被ばく時年齢分布が5歳以下を含んでいれば、放射線影響であると言えるだろう、と述べている。事実、山下俊一氏や鈴木眞一氏らは、福島県の甲状腺検査で甲状腺がんが診断され始めてから、事故当時5歳以下だった人たちで甲状腺がんが診断されていないために放射線の影響であるとは考えにくい、と何度も述べている。このグラフを見ると、ウクライナで事故当時5歳以下だった人たちで甲状腺がん症例が急激に増加したのは、事故から5年経ってからだったことが明らかである。すなわち山下俊一氏や鈴木眞一氏らは、福島県の潜伏期間中とチェルノブイリでの潜伏期間後の症例の被ばく時年齢分布という、比較すべきでないことを比較していたという事実が、この図1を見ると明らかである。

しかしそもそも、「似ている」とされる年齢分布の輪郭にしても、ウクライナで事故後すぐに超音波検査によるスクリーニングが行なわれていたのではなく、「似ている」からこうである、という結論が出せるというわけではない。また、この手紙の中で4年間と設定された潜伏期間は実際はもっと短いのではないか、と潜伏期間自体の妥当性を疑問視する意見もある。

余談だが、この手紙は、山下俊一氏が所長をつとめる、長崎大学の原爆後障害医療研究所 放射線リスク制御部門 放射線災害医療学研究分野 の論文リストにも入っている。




福島民友紙面版「甲状腺検査 4人 2巡目がん疑い  1巡目異常なしの子ども」文字起こし


オンライン記事 
福島で甲状腺がん増加か 子ども4人、放射線影響か確認

 福島県の全ての子どもを対象に東京電力福島第1原発事故による放射線の影響を調べる甲状腺検査で、事故直後の1巡目の検査では「異常なし」とされた子ども4人が、4月から始まった2巡目の検査で甲状腺がんの疑いと診断されたことが23日、関係者への取材で分かった。25日に福島市で開かれる県の検討委員会で 報告される。

 甲状腺がんと診断が確定すれば、原発事故後にがんの増加が確認された初のケースとなる。調査主体の福島県立医大は確定診断を急ぐとともに、放射線の影響かどうか慎重に見極める。

 1986年のチェルノブイリ原発事故では4~5年後に子どもの甲状腺がんが急増した。



2014年12月24日付けの福島民友紙
面版より




(画像提供:@info_Fukushimaさん


以下、紙面版の文字起こし。英訳はこちら

甲状腺検査 4人 2巡目がん疑い 1巡目異常なしの子ども


 本県の全ての子どもを対象に東京電力福島第一原発事故による放射線の影響を調べる甲状腺検査で、事故直後の1巡目の検査では「異常なし」とされた子ども4人が、4月から始まった2巡目の検査で甲状腺がんの疑いと診断されたことが23日、関係者への取材で分かった。25日に福島市で開かれる県の検討委員会で報告される。

 甲状腺がんと診断が確定すれば、原発事故後にがんの増加が確認された初のケースとなる。

 調査主体の福島医大は確定診断を急ぐとともに、放射線の影響かどうか慎重に見極める。

 1986年のチェルノブイリ原発事故では4−5年後に子どもの甲状腺がんが急増した。このため医大は、事故から3年目までの1巡目の結果を、放射線の影響がない現状把握のための基礎データとしてとらえ、2巡目以降でがんが増えるかなどを比較し、放射線の影響を調べる計画。

 検査の対象は1度目が事故当時18歳以下の約37万人で、2度目は事故後1年間に生まれた子どもを加えた約38万5千人。それぞれ1次検査で超音波を使って甲状腺のしこりの大きさや形状などを調べ、程度の軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定し、BとCが血液や細胞などを詳しく調べる2次検査を受ける。

 関係者によると、今回判明したがんの疑いの4人は震災当時6〜17歳の男女。1巡目の検査で2人が「A1」、残る2人も「A2」と判定され、「異常なし」とされていた。4人は、今年4月からの2巡目検査を受診し、1次検査で「B」と判定され、2次検査で細胞などを調べた結果「がんの疑い」と診断された。腫瘍の大きさは7〜17.3ミリ。

 4人のうち3人は、原発事故が起きた2011年3月11日から4ヶ月の外部被ばく線量が推計でき、最大2.1ミリシーベルトだった。4人はそれぞれ大熊町、福島市、伊達市、田村市に居住していた。

 また、1巡目でがんの診断が「確定」した子どもは8月公表時の57人から27人増え84人に、がんの「疑い」は24人に(8月時点で46人)になったことも新たに判明した。

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...