小児科医・遺伝子学者ウラジミール・ヴェルテレッキー氏のメールからの引用


小児科医・遺伝子学者ヴェルテレッキー氏の海外反核研究者・専門家メールリストへの2013年4月中旬のメールからの引用和訳:

マスコミによる原発などに関するニュースは、定期的に発信するように作られ、一般大衆を満足させ、反核グループに焦点からそれた議論をさせるという目的を達成している。それによって達成できるのは、一般大衆の気づきを鈍らせる事である。中でも特に、推進派が一番恐れていることである「健康影響」に関しての真実を、一般大衆が気づく事を鈍らせることである。

例えばマスコミは、トモダチ作戦の際に空母ロナルド・レーガンで被ばくした軍人たちの事を報道しない。この軍人達は、理想的な「自然発生の研究コホート」である。女性の軍人は生理が止まったという。

根本的な問題は「生物学的」なものであり、その枠組みの中でも「人間の健康」であり、その枠組みの中で原子力推進派の広報が一番困るのは、生理が止まる、精子の数が少なくなると言うような、将来の世代に関わって来ることである。こういう事を一般大衆が気づくの が、推進派が一番恐れていることなのである。

そういう問題を抹消するために、原子力推進派は、「線量が小さ過ぎる」という言葉などを呪文のように繰り返す。しかし、原子力発電所の「最悪の証明」は、「生理が止まっ た」「精子が動いてない」などの言葉であり、中でも小児白血病は、推進派エージェントにとっては、毒薬のようなものである。

我々には、「本当の」データの代わりに、原子力推進派があてがう「推測値」を受け入れる必要はないはずだ。電離放射線は先天性異常の原因であり、先天性異常の定義としては、白血病と甲状腺癌だけでなく、色々な種類の腫瘍も含む。原子力産業はなぜ、このような影響が起こらないということを実際にを示す動きをしないのか?

福島の「故障」の近くに居た妊婦の集団ベースの登録はどこにあるのか?言い訳ばかりで、証明がない。しかし、現実的なデータの要求もない。何故か?無知のためか?そうではないと思う。我々はニュース報道の欠点に焦点をあてがちであるが、私の視点では、これは避けることができる。

記事を書いている人に、どの位の子供の甲状腺機能が生まれつき異常なのかを明示できる立場にいる事を明らかにしてほしいと思う。生後に起こる癌ではなく。 それを、疫学研究者がクリーンだと認めるような形で出してほしい。もし異常がないのなら良いニュースだが、当局はそんな危険はおかさないだろう。

我々のような人達が、一般大衆の貢献が予算に反映されるような人達から、客観的根拠を要求するべきなのだろう。一番簡単な方法は、「これもあれもそれも信じられない。証明してくれ」と要求することである。この方法はまた同時に、「大衆衛生の過誤」というものがあるという考えを拡散できるのである。

体内に取り込まれた放射性核種の神経精神的影響


Neuropsychiatric Effects of Ionizing Radiation
Chapter 6 Neuropsychiatric Effects of Chronic Irradiation


電離性放射線の神経精神的影響
第6章 慢性被ばくの神経精神的影響


142-143ページの表
表6.2 体内に取り込まれた放射性核種の神経精神的影響


亜鉛85 Zinc 65 (Zn-65)
ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 57分

筋肉、骨格、皮膚、肝臓、脳下垂体、すい臓と生殖腺に蓄積する。
神経性精神系の症状には、脳の生体電気活動の障害の記述もある。


ストロンチウム89 Strontium 89 (Sr-89) ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 50.5 日
ストロンチウム90 Strontium 90 (Sr-90) ベータ線放出核種 半減期 29.1年

集中的に骨格(主に骨の成長ゾーン)に、特に妊娠中と授乳中に沈着する。胎盤を通して胎児に入り込み、母乳に入る。1%以下が軟組織に蓄積する。

また、骨格への蓄積は、骨痛症候群と自律神経無力症候群を誘発し、同時に、中枢神経系の器質性損傷を引き起こす。


ヨウ素131 Iodine 131 (I-131) ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 8日
ヨウ素133 Iodine 133 (I-133) ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 20.8時間

放射性ヨウ素は、子供の甲状腺、脳下垂体、腎臓に特に重大な影響を及ぼす。胎盤と胎児にも沈着する。甲状腺癌、副甲状腺癌や乳癌、また、多発性内分泌腺疾患 等を誘発する可能性がある。局部的な多発性神経炎、特有な首の異常感覚や神経痛、ホルネル症候群、片頭痛発作やしゃがれ声なども見られる。
また、放射性ヨウ素の影響は、胎児・新生児・子供の甲状腺機能低下症の増加を引き起こし、最終的にはクレチン症や他の精神・神経疾患も引き起こす可能性がある。


セシウム134 Cesium 134 (Cs-134) ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 2.1年
セシウム137 Cesium 137 (Cs-137) ガンマ線放出核種 半減期 30年

放射性セシウムは、比較的均等に体内に行き渡る。筋肉、肝臓、腎臓、肺や骨格に蓄積し、胎盤を通して胎児に入り、母乳にも入る。脳に蓄積するというデータも ある。他には、自律神経多発性神経炎を伴う中枢神経系の器質的損傷に至る、自律神経無力症候群やうつ病症候群も挙げられる。


金198 Gold 198 (Au-198)  ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 2.7日

細胞内皮系、神経組織、特に脊髄に蓄積する。また、末梢性多発性神経炎と多発性不全麻痺等が挙げられる。


水銀203 Mercury 203 (Hg-203)  ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 46.6日

特に、腎臓に蓄積する。また、甲状腺、脳下垂体と脳にも蓄積する。水銀中毒においては、電離性放射線と安定水銀塩は相乗的な反応と損傷をもたらす。


タリウム204 Thallium 204 (Tl-204)  ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 3.8年

筋肉、骨格と実質臓器に蓄積する。皮膚においては主に毛嚢の成長ゾーンに沈着し、毛根内でのクレアチン生産の変化により脱毛症を引き起こすことがある。


鉛210 Lead 210 (Pb-210)  ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 22.3年

骨に著しく蓄積する。しかし、ほぼ全ての臓器や組織にも蓄積する。生物学的に一番危険な放射性核種のひとつであり、特に神経系に、多発性神経炎や脳障害などの損傷を引き起こす。


ラジウム226 Radium 226 (Ra-226)  アルファ線、ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 1600年

骨組織、腎臓と唾液腺に沈着する。ラジウム中毒は、骨組織の破壊に特徴づけられ、放射線性骨炎により、骨の脆性が増し、病的骨折を引き起こす。ラジウムによ る損傷に含まれる症状は、自律神経無力症、手や足の骨、胸骨、肋骨や、脊椎の痛み等の骨痛症候群の中の特定の症状、また、中枢神経系の器質性損傷や、放射線性白内障などである。


トリウム228 Thorium 228 (Th-228)  アルファ線、ベータ線、ガンマ線放出核種 半減期 1.9年

骨に蓄積する。造血の比較的軽い反応が、著しい神経症状と関連する可能性がある。


ウラン238 Uranium 238 (U-238) アルファ線、ベータ線とガンマ線放出核種 半減期 44億6800万年

非常に強力な原形質への影響を及ぼす。特に、骨は重大な影響を受けやすい。また実質臓器にも蓄積する。ウラン中毒は多くのさまざまな臓器に影響を及ぼすと伴に、症状を誘発し、自律神経無力症候群、自律神経失調症、中枢神経系の器質性損傷や、麻痺などはその特徴的な例である。

国連特別報告者アナンド・グローバー氏・日本調査報告書(2013年5月23日暫定版)内の「勧告」の和訳


国連特別報告者アナンド・グローバー氏・日本調査報告書2013年5月23日暫定版

22〜24ページ目の勧告の、下記のサイトのヒューマン・ライツ・ナウによる仮訳に同意できない部分があったので、和訳させて頂きました。
http://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-05d7.html


Recommendations

勧告

76. The Special Rapporteur urges the Government to implement the following recommendations in the formulation and implementation of its nuclear emergency response system:

 特別報告者は、原子力緊急対応システムの策定と実施について、日本政府が以下の勧告を履行することを求める。

 (a) Establish regularly updated emergency response plans that clearly demarcate the command structures and specify evacuation zones, evacuation centres, and provide guidelines for assisting vulnerable groups;

 指揮命令系統を明確に画定し、避難区域と避難場所を特定し、被害を受けやすいグループを援助するためのガイドラインを提供する、定期的に更新された緊急対応計画を確立すること

 (b) Communicate disaster management plans, including response and evacuation measures, to residents of areas likely to be affected by a nuclear accident;

 原子力事故の影響を受けると思われる地域の住民に、事故対応や避難措置を含む災害対応について知らせること

 (c) Release disaster-related information to the public as soon as a nuclear accident occurs;

 原子力事故後、可及的速やかに、災害関連情報を公開すること

 (d)    Distribute promptly iodine prophylaxis before or as soon as the accident occurs;

 原子力事故の前か直後に、可及的速やかにヨウ素剤を配布すること

 (e) Provide for prompt and effective usage of such technology as SPEEDI in gathering and disseminating information on affected areas;

 被災した地域に関する情報の収集拡散のために、SPEEDIのような技術の使用を迅速かつ効果的に提供すること


77. With respect to health monitoring of the affected population, the Special Rapporteur urges the Government to implement the following recommendations:

 原発事故の影響を受けた人々に対する健康調査について、特別報告者は日本政府に対し以下の勧告を実施するよう求める。

 (a) Continue monitoring the impact of radiation on the health of affected persons through holistic and comprehensive screening for a considerable length of time and make appropriate treatment available to those in need;

 長期間に渡る全身包括的な検診により、被災した人々においての放射線による健康影響のモニタリングを継続的に行い、必要な場合は適切な治療を行なうこと

 (b) The health management survey should be provided to persons residing in all affected areas with radiation exposure higher than 1 mSv/year;

 健康管理調査は、年間被ばく量が1mSv以上のすべての被災地域の住民に提供されるべきである

 (c) Ensure greater participation and higher response rates in all health surveys;

 すべての健康調査をもっと多くの人が受けれるようにし、調査の回答率が高くなるようにすること

 (d) Ensure that the basic health management survey includes information on the specific health condition of individuals and other factors that may exacerbate the effect of radiation exposure on their health;

 基本健康管理調査(県民健康管理調査における「基本調査」)が、個人特有の健康状態および、被ばくによる健康影響を悪化させる他の要因についての情報を含むようにすること

 (e) Avoid limiting the health check-up for children to thyroid checks and extend check-ups for all possible health effects, including urine and blood tests;
 
 子どもの健康調査は甲状腺検査に限定せず、尿検査や血液検査を含む、起こり得るすべての健康影響の調査に拡大すること

 (f) Make follow-up and secondary examination for children’s thyroid check-up available to all requesting children and parents;

 子どもの甲状腺検査の追加検査と二次検査を、検査を希望するすべての子どもや親に提供すること

 (g) Simplify children’s and their parents’ access to information regarding their test results, while ensuring the protection of private information;

 個人情報を保護しつつも、検査結果に関する情報への子どもと親のアクセスを容易なものにすること

 (h) Refrain from restricting examination for internal exposure to whole-body counters and provide it to all affected population including residents, evacuees, and to persons outside Fukushima prefecture;

 内部被ばく検査は、ホールボディーカウンターに限定せず、さらに、住民、避難者、福島県外の住民など、被ばくしたすべての集団に提供すること

 (i) Ensure mental health facilities, goods and services are available to all evacuees and residents, especially vulnerable groups such as older persons, children and pregnant women;

 避難者と住民すべて、その中でも特に高齢者、子どもや妊婦などの被害を受けやすいグループに対して、精神衛生ケアに関する施設、必要品やサービスの提供を確保すること

 (j) Monitor the health effects of radiation on nuclear plant workers and provide necessary treatment.
 
 原発労働者における放射線被ばくによる健康影響をモニターし、必要な治療を提供すること



78. The Special Rapporteur urges the Government to implement the following recommendations regarding policies and information on radiation dose



 特別報告者は、放射線被ばく量に関する政策と情報に関して、日本政府が以下の勧告を実施するように求める



 (a) Formulate a national plan on evacuation zones and dose limits of radiation by using current scientific evidence, based on human rights rather than on a risk-benefit analysis, and reduce the radiation dose to less than 1mSv/year;


 避難区域と被ばく量に関する国としての計画は、リスク・ベネフィット分析よりも人権に基づいた上で、最新の科学的証拠を用いて策定し、被ばく量を年間1mSv以下に低減すること

(b) Provide, in schoolbooks and materials, accurate information about the risk of radiation exposure and the increased vulnerability of children to radiation exposure;

 学校の教科書と教材において、放射線被ばくの危険性と、子どもが放射線被ばくからの被害を受けやすいことについての正確な情報を提供すること

(c)    Incorporate validated independent data, including that from the communities, to monitor radiation levels.

 放射線量のモニタリングのために、地域の住民による測定結果を含む、検証されて独立したデータを取り入れること


79. Regarding decontamination, the Special Rapporteur urges the Government to adopt the following recommendations:

 除染について、特別報告者は日本政府に対し、以下の勧告を採用するよう求める

 (a) Formulate urgently a clear, time-bound plan to reduce radiation levels to less than 1mSv/year;

 放射線レベルを年間1mSv以下に低減するための、明確かつ期限を定めた計画を策定すること

 (b)   Clearly mark sites where radioactive debris is stored;

 放射性廃棄物の貯蔵場所の位置を明示すること

 (c) Provide, with the participation of the community, safe and appropriate temporary and final storage facilities for radioactive debris;

 地域社会の参加のもと、放射性廃棄物の安全で適切な中間および最終貯蔵施設を提供すること


80. The Special Rapporteur urges the Government to implement the following recommendations regarding transparency and accountability within the regulatory framework:

 特別報告者は、規制の枠組みのなかでの透明性と説明責任の確保について、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう求める。

 (a) Require compliance of the regulatory authority and the nuclear power plant operators with internationally agreed safety standards and guidelines;

 規制当局と原子力発電事業者に対して、国際的に合意された安全基準やガイドラインに従うように求めること

 (b)    Ensure disclosure by members of the Nuclear Regulation Authority of their association with the nuclear power industry;

 原子力規制委員会の規制委員と原子力産業との関連について、規制委員自身による情報開示を保証すること

 (c) Make information collected by the Nuclear Regulation Authority, including regulations and compliance of nuclear power plant operators with domestic and international safety standards and guidelines, publicly available for independent monitoring;

 国内および国際的な安全基準・ガイドラインに基づく原子力発電事業者の規制とその順守に関する情報を含む、原子力規制委員会が集めた情報を、独立したモニタリングのために公開すること

 (d) Ensure that TEPCO and other third parties are held accountable for the nuclear accident and that their liability to pay compensation or reconstruction efforts is not shifted to taxpayers.

 原発事故についての東電と他の第三者の説明責任を確保し、賠償と復興の法的責任が納税者に転嫁されないようにすること


81. In relation to compensation and relief, the Special Rapporteur urges the Government to implement the following recommendations:

  補償や救済措置について、特別報告者は政府に対し以下の勧告を実施するよう求める

 (a) Formulate, with the participation of the affected communities, the implementing framework under the Victims Protection Law;

 「子ども・被災者支援法」の実施の枠組みを、被災した地域社会の参加を確保して策定すること

 (b) Include cost of reconstruction and restoration of lives within the relief package;

 復興と人々の生活再建のためのコストを支援のパッケージに含めること

 (c) Provide free health check-ups and treatment that may be required for health effects from the nuclear accident and radiation exposure;

 原発事故と被ばくによる健康影響について、無料の健康診断および必要な治療を提供すること

 (d) Ensure that compensation claims by affected persons against TEPCO are settled without further delay;

 被災者による東京電力に対する損害賠償請求が、さらなる遅延なく解決されるようにすること


82. The Special Rapporteur urges the Government to ensure effective community participation, especially participation of vulnerable groups, in all aspects of the decision-making processes related to nuclear energy policy and the nuclear regulatory framework, including decisions regarding nuclear power plant operations, evacuation zones, radiation limits, health monitoring and compensation amounts.

 特別報告者は、原子力発電所の稼働、避難区域、被ばく限度、健康管理と補償額などに関する決断を含む、原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みの意思決定プロセスのすべての側面において、地域社会、特に被害を受けやすいグループの効果的な参加を保証することを日本政府に求める
                                                                                 



福島第一原子力発電所の避難区域に置き去りにされた 牛における人工放射性核種の分布


(この記事は、 2013年2月7日にFukushima Voiceオリジナルバージョンに掲載されました。)
http://fukushimavoice.blogspot.ca/2013/02/blog-post.html


東北大加齢医学研究所の福本学教授らのチームによる、福島原発の20キロ圏内で置き去りにされた牛の内部被ばく研究の要点和訳です。


英語論文リンク

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福島原発事故後、2011年4月22日付けで20キロ圏内には3400頭の牛、31,500匹の豚と63万羽の鶏が残された。5月12日には政府から福島県に避難区域の家畜の安楽死の指示が出た。福島原発事故を受けての放射性セシウムによる慢性被ばくのリスク評価の重要さが研究者によって指摘されていたが、動物モデルの慢性的バイオアッセイが存在しない事も強調されていた。避難区域に残された家畜のほとんどは個別の識別番号によって見分ける事ができるため、放射性核種への慢性被ばくの評価のための動物モデルとして理想的だろうと考えた。放射性核種の生物動力学と内部被ばくの線量評価の基本的な情報を得るために、牛の複数の臓器におけるガンマ線放出体の人工放射性核種を測定し、臓器特異性と代謝を調べた。

2011年8月29日から11月15日の間に、合計79頭の牛を捕獲した。そのうち27頭は南相馬市で、52頭は川内村で捕獲した。63頭はメスの牛(3頭は妊娠中)、10頭はオスの子牛で3頭はメスの子牛だった。

ガンマ線スペクトル分析では、セシウム134と137、銀110m、テルル129mの光電ピークが見られた。(図S1)コントロールとして使われた北海道の牛からは、どのピークも見られなかった。

図S1 牛の臓器内で検出された体内放射性核種のγ線スペクトル分析 pic.twitter.com/cOLIXGPg




表1は各臓器のカウント数から計算された、この4つの放射性核種の濃度である。測定値は全て、大放出が起こった2011年3月15日に減衰補正された。ここではセシウム134とセシウム137を合わせてセシウム137と言及する。セシウム137は筋肉組織での濃度が一番高かった。胸最長筋、大腿2頭筋と咬筋でのセシウム137濃度には統計学的差がなかったので、この3つをまとめて「骨格筋」と分類した。

表1 牛の臓器と末梢血液内のセシウム134、セシウム137、銀110m、テルル129mの濃度




回帰分析によると、末梢血液と臓器のセシウム137濃度の間には線形相関が見られた(図1)ので、臓器内の放射性セシウム濃度は血中濃度から推定できる事が示された。

図1 区画毎の血中セシウム137濃度と臓器内セシウム137濃度の関係  pic.twitter.com/F8UW7S99

   

牛は捕獲された区画によって3つのグループに分けられた。区画1と3は福島原発から北に位置する南相馬市で、区画2は南西に位置する川内村だった。区画1の牛は原発事故後に畜舎の中に置かれ、放射性核種汚染がない牧草と放射性汚染がある雨水を与えられた。区画2と3の牛は、放牧され、事故後に汚染された草を自由に食べた。

表S2は、区画ごとの、牛の臓器内におかるセシウム134とセシウム137濃度を示した。区画1と3は同じ市内であったが、餌の条件が異なった。

 
表S2 牛の臓器内におけるセシウム134とセシウム137の濃度 pic.twitter.com/V03xQiTZ


区画2と3での土壌のセシウム137濃度はほぼ同じであった(表S3)。血中のセシウム137濃度は、区画3が最大で、区画1(汚染牧草を食べなかった)が最小であった。これは、体内に蓄積した放射性核種の濃度は、主に餌の状態と牧場の地理的状況に影響される事を示す。

表S3 土壌と牧草の放射能濃度 pic.twitter.com/jX7HB8cf


母体から胎児への放射性核種の移行は内部被ばくに関しての最大の懸念のひとつである。

捕獲された3頭の妊娠中の牛の、胎児と母牛の放射性セシウム濃度の比較は図2Aに示され、胎児の方が母牛の1.19倍であった。

図2A 胎児と母牛のセシウム137濃度の比較 pic.twitter.com/BtUNIEzo

 

セシウムは胎児と母牛の間を自由に移行し、胎児の全ての組織に均等に分布するとみなされている。すなわち、放射性セシウム濃度は、母牛よりも胎児の方で高かった。銀とテルルは経胎盤性を持つが、銀110mもテルル129mも胎児の臓器には見られなかったので、どちらも母体の臓器に蓄積され、胎児には移らなかった事を示す。

区画2で3組の母牛と子牛を捕獲し、子牛が原発事故後に生まれ、捕獲当時に断乳中であったのを確認した。

図2Bによると、子牛における放射性セシウム濃度は母牛の1.51倍であった。

図2B 子牛と母牛のセシウム137濃度の比較 pic.twitter.com/RQjZf5fq

 


子牛の臓器におけるセシウム137の蓄積は、母牛の該当臓器との相関関係にあるが、母牛よりも濃度が高いという結論に達した。新生児と成人における水と電解物質の代謝はかなり異なるはずであり、餌のカリウム配合量が放射性セシウム濃度に影響を与えるかもしれない。この子牛達が摂取していた母乳と牧草の割合についてのデータはない。

このデータでは、甲状腺のセシウム137蓄積濃度は他の内臓よりも低かった。バンダジェフスキーは、放射性セシウムの蓄積は内分泌器官、特に甲状腺に最大に見られたと報告している。人間と牛の種族間の違いを考慮しなくてはいけないが、放射性セシウムは甲状腺癌発生にあまり影響がないと思われる。

ウクライナの汚染区域の居住者では、膀胱の尿路上皮の慢性炎症と増殖的な異型細胞の発達が報告されている。この研究では、膀胱におけるセシウム137濃度が比較的高かった。肉眼で観察する限り、膀胱に異常は見られなかった。

銀110mは核分裂生成物でないが、安定同位体の銀109の中性子捕獲によって生成される。銀110mは、胎児以外の牛の肝臓で検出された。銀110mとセシウム137の比率は、土壌で0.5%以下、草で5%以下であった(表S3:既出)。

チェルノブイリ事故後の羊の肝臓での銀110m蓄積量と肝臓への移行係数は、セシウム137よりも大きかった。なので、銀110mの肝臓への移行係数は、セシウム137よりも高いことが示される。銀110mの血中濃度と肝臓での濃度に相関関係は見られなかった(論文内6ページ目の図3B)。ラットとネズミにおいては、銀は主にリソソームに関連した組織(リンパ節、肝臓、腎臓や中枢神経)に蓄積する。また銀は肝臓のクッパー細胞に集中して蓄積する。よって、肝臓は、銀110m蓄積の主要なターゲット臓器であると結論づけられる。

測定が原発事故の7ヶ月後だったにも関わらず、牛の腎臓内でテルル129mが明らかに検出された。テルル129mの半減期は33.6日と比較的短いので、腎臓は、テルル129m蓄積のターゲット臓器であると結論づけられる。

原発事故後、大量のテルル132が大気に放出された。最初はテルル129mよりも多くのテルル132が避難区域の土壌で見つかった。テルル129mが腎臓に蓄積されると言う事は、福島原発事故直後に、テルル132もまた腎臓に蓄積した事を示唆する。テルル132の半減期は3.2日で甲状腺に向性を持つ放射性ヨウ素132(半減期2.3時間)に崩壊する。別の研究では、牛に経口投与された放射性テルルが、どの組織よりも甲状腺に多く蓄積したと報告されている。これらの結果は、ヨウ素131と同じくテルル132も甲状腺への健康被害リスクの評価で考慮されるべきだと言う事を示唆する。

現在、様々な種族を代表する組織バンクを作るために、避難区域内での牛を含む動物の組織をさらに収集している。まず最初に、動物に蓄積された放射性核種の線量評価をするつもりである。電離性放射線の影響に直接関連づけられるであろう病巣を探すために、解剖された動物の顕微鏡検査も行われている。この研究は、福島原発事故後の牛における様々なγ線放出核種の臓器特異的蓄積についての最初の報告であり、公共衛生と放射線安全の改善に貢献するはずである。


メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...