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福島事故前と事故後に北太平洋で捕獲された鮭の缶詰の放射能検査結果


米国の水産会社 Vital Choice Wild Seafood and Organics(ヴァイタル・チョイス・ワイルド・シーフード・アンド・オーガニックス)の鮭缶の放射能検査結果を報告する。(英語記事はこちら

注:
ベクレル(Becquerel, Bq)とは、放射能を表す単位である。1 Bqとは、一秒間に原子が1個崩壊することを意味する。
ピコキュリー(picocurie, pCi)は、放射能を表す単位で、 1 pCi = 0.037 Bq である。

ハイライト
  • 米国の水産会社に製造された鮭缶の放射能検査を行うというこのプロジェクトは、市民有志により発案された。福島事故前後(2009年、2011年、2012年、2014年)に太平洋で捕獲された鮭から製造された鮭缶で、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90とトリチウムの検査が、日本の市民測定所により行われた。
  • 4検体すべてにおいて、非常に微量のセシウム137が検出されたが、このほとんどが、核実験由来のセシウム137だった。 
  • 2011年8月に製造された鮭缶から検出されたセシウム137は、他の3検体よりも約0.02 Bq/kg高かった。もしもセシウム134も同時に検出されていたら、この差異は福島事故由来と言えるだろう。
  • だが、セシウム134は不検出だった。福島事故由来のセシウム137とセシウム134の比率が1:1であることと、セシウム134の半減期が2年であることを踏まえると、もしもセシウム134が含まれていたとしても、検出限界値以下のために不検出となる。
  • 2011年産の鮭缶のセシウム137が他の3検体よりも高いのは、福島事故に関連している可能性はあるが、それを裏付けるデータはない。
  • ストロンチウム90とトリチウム(自由水と有機化合物のどちらも)は、不検出だった。
背景
この「プロジェクト」は、2015年夏に、ヴァイタル・チョイス社が行ったベニザケの2015年放射能検査結果の、異常に高いストロンチウム90値を検証することを希望した市民有志により、おのずと発足した。

ヴァイタル・チョイス社は、2011年3月に起こった東京電力福島第一原子力発電所事故以来、年に一度か二度、自社製品に用いられる魚介類の放射能検査を率先して行ってきた。2015年に実施されたストロンチウム90の検査では、6オンスの冷凍皮付き切り身6切れが、ベニザケの検体として、SGSという測定所に2014年12月11日に受理された。放射性セシウム検査には、同量の検体が、Eurofinsという別の測定所に送付された。

ヴァイタル・チョイス社から入手したSGSの報告書によると、ベニザケから、1.76 ± 0.863 pCi/g(65.12 ± 31.93 Bq/kg)と、予想外に高濃度のストロンチウム90が検出された。検出下限値は、1.45 pCi/g(53.65 Bq/kg)だった。

下記の理由を考慮すると、この、ストロンチウム90が「65.12 Bq/kg」という検査結果は、異常に高い。
  1. 日本政府が行った魚介類の検査でストロンチウム90の最高値が検出されたのは、2011年12月21日に福島沖で採集されたシロメバルで、1.2 Bq/kg(検出限界値約0.03 Bq/kg)だった。(水産庁のページからアクセスできる、「水産物の放射性物質の調査結果(ストロンチウム)」の項目10を参照。試料が採集された場所は、 「水産物の放射性物質の調査結果(地図 ストロンチウム)」の図1に、「10」と記されている。)
  2. 2012〜2013年に福島第一原子力発電所に隣接する港内で採集された魚を調査した2015年研究では、内臓を除く魚全体から検出されたストロンチウム90の最高値は、170 ± 1.2 Bq/kg(湿重量)だった。またこの研究でのセシウム134/137の数値は、ストロンチウム90の200〜330倍だった。
  3. 前述のとおり、ストロンチウムは一般的にセシウムよりずっと低レベルでしか見つかっておらず、これは、事故による放出量と一致している。たとえば、項目1で、日本政府により検査されたシロメバルのストロンチウム90が 1.2 Bq/kgだったと言及されたが、このシロメバルから検出されたセシウムは、970 Bq/kg(セシウム134が390 Bq/kg、セシウム137が580 Bq/kg)だった。ヴァイタル・チョイス社は、ベニザケのセシウム検査とストロンチウム検査に2セットの別々の検体(6オンスの皮付き切り身を6切れが1セット)を用いてはいるが、セシウム134とセシウム137のいずれも検出されなかった(検出限界値 1.0 Bq/kg)。ゆえに、ヴァイタル・チョイス社のベニザケからストロンチウム90が検出されるとは考えにくい。
  4. さらに、ここで言及した他の検査では、セシウム検査に筋肉、ストロンチウム検査に内臓を除いた魚全体を用いている一方で、ヴァイタル・チョイス社のベニザケの試料は、6オンスの皮付き切り身6切れであり、骨を除いた筋肉と皮のみだったことからも、ストロンチウム90が「65.12 Bq/kg」だという報告は、非常に疑わしい。(上記の「2015年研究」では、主に、内耳にある炭酸カルシウムの結晶である耳石が分析されたが、内臓を除いた魚全体での測定値も言及されている。)
  5. また、「65.12 ± 31.93 Bq/kg」という結果は、誤差範囲が31.93 Bq/kgとかなり大きく、検出限界値が、日本政府の検査で用いられている0.03 Bq/kgよりもはるかに高い53.65 Bq/kgであることからも、この検査の質は疑わしいと言える。

(ヴァイタル・チョイス社は、2015年検査結果報告の最下部で、ストロンチウム90の測定値が高かったのは、測定のエラーによるものだろう、と説明している。)


ヴァイタル・チョイス社の2015年放射能検査によるストロンチウム濃度の高数値がインターネットで話題になっていた頃、日本の市民測定所で再検査を行うという考えが出てきた。市民測定所では、事故後、市民の要求に応え、高性能の測定機器を入手し、検出限界値を可能な限り下げ、微量の放射性物質を検出すべく、工夫を重ねてきていた。まったく同じ試料を検査することはかなわないにしても、せめて、同じ2014年に捕獲された魚を検査することは可能のはずである。

実は、筆者は、事故前からヴァイタル・チョイス社の鮭缶を備蓄しており、2011年の福島事故のすぐ後に、2009年産の鮭缶(骨・皮入り)を複数箱購入したのだが、それを使えるのではないか、と思いついた。また偶然にも、福島事故が起こった2011年夏に製造された鮭缶(骨・皮入り)を、一箱持っている知り合いが近所にいた。さらに、ストロンチウムはカルシウムに似ているため、骨に蓄積するので、骨なしの切り身よりも、骨と皮入りの鮭缶でストロンチウム90検査を行う方が有意義である。(冷凍の切り身を日本まで冷凍配達するのは、個人で払うには高くつく、という問題もある。)そして、ストロンチウム測定と「同じ」試料でセシウムも測定すれば、福島事故前の鮭に含まれるセシウム137濃度のベースラインを得ることもできる。

ヴァイタル・チョイス社は、2014年産の鮭缶を提供することを、快く承諾してくれた。さらに、ヴァイタル・チョイス社の倉庫が、間違えて2012年産の鮭缶を送ってくれたおかげで、思いがけない「ボーナス」として、2012年産鮭缶も入手でき、事故前(2009年)と事故後(2011年、2012年、2014年)の鮭缶(骨と皮入り)が揃った。鮭が捕獲された日時、そして太平洋のどこで捕獲されたかという情報を得ることはできないが、缶コードにより、鮭缶がいつ製造されたのかは示されている。(鮭は捕獲された年に缶詰に加工される。)缶コード詳細とその説明は、こちらにまとめてある。

鮭缶は、米国郵便局の定額小包便で、いくつかに分けて日本に送付され、市民有志の協力により、セシウム測定のために東京の「新宿代々木市民測定所」に搬送された。セシウム測定後の試料は冷凍保管され、後日、ストロンチウムとトリチウム測定のため、福島県の「いわき放射能測定室 たらちね」にボランティアにより搬送された。検査費用は、測定所の厚意で無償か、あるいは個人負担された。

結果

報告書そのものは、こちらからアクセスできる。
放射性物質ごとの検査結果の表は、こちらに、試料の詳細情報はこちらにまとめてある。

ストロンチウム90

ストロンチウム検査は、日本で唯一、ベータ放射線測定器を持つ市民測定所である、「いわき放射能測定所 たらちね」で実施された。測定には、液体シンチレーションカウンター(詳細はこのPDFを参照)が用いられた。液体シンチレーション法は、この英語文献で詳しく説明されている。「たらちね」の検出限界値の0.15〜0.17 Bq/kgは、ヴァイタル・チョイス社がもともと測定を依頼した「SGS」の検出限界値の53.65 Bq/kgよりはるかに低いが、どの検体からも、検出限界値を超えるストロンチウム90は検出されなかった。

ヴァイタル・チョイス社が受け取った報告書には、分析方法として、「ASTM D5811-95」と記載されていた。これは、ASTM規格で定められている、「水中のストロンチウム90の標準検査方法」である。この分析方法は、環境中の水の検体内で、0.037 Bq/L(1.0 pCi/L)以上のストロンチウム90を測定するために開発されたもので、ここで説明されているように、ベータ線比例計数管(β-GPC)を用いて行われる。β-GPCは、環境有害物質・特定疾病対策庁(Agency for Toxic Substances and Disease Registry 、略してATSDR)のウェブサイトの「ストロンチウムの毒性プロフィール」の第7章「分析方法」の表7−2に示されているように、飲料水中のストロンチウムの分析方法である。

ヴァイタル・チョイス社は、2013年11月にもストロンチウム90の検査を行っている。この2013年11月の検査は、Pace Analytical Services社により実施され、SGSによりレビューされたが、ここでも、分析方法は、「ASTM D5811-95」と示されている。この時に検査された3種の魚、ベニザケ、キングサーモンとビンナガマグロは、いずれもストロンチウム90が検出限界値(それぞれ、0.0513 pCi/g、0.0635 pCi/g、0.0456 pCi/g)未満だった。

これらの検出限界値は、分析方法で可能とされている、1.0 pCi/L(0.037 Bq/L)よりも二桁高いが、ベニザケでの検出限界値は、2013年の0.0513 pCi/g(1.898 Bq/kg)よりも、2015年の1.45 pCi/g(53.65 Bq/kg)の方が、さらに二桁高い。これほど大きな違いは、単位の変換ミスのような、なんらかのエラーによるとしか思えない。

トリチウム

トリチウム検査も、「いわき放射能測定室 たらちね」で行われた。トリチウム自由水、トリチウム組織結合水のいずれも、検出限界値以下だった。

セシウム134&セシウム137

セシウム測定は、新宿代々木市民測定所で行われた。(この結果は、減衰補正されていない。報告書の実物は、こちらから閲覧できる: 2009 2011 20122014

2009年鮭から検出された、0.084 Bq/kgのセシウム137は、福島原発事故前から環境中にバックグラウンド放射線として存在する、核実験由来の「レガシー」セシウム137である。2011年鮭缶から検出されたセシウム137は、2009年鮭缶より約25%高い0.108 Bq/kgで、それが2012年鮭缶では0.088 Bq/kgに、2014年鮭缶では0.080 Bq/kgと、福島原発事故前のレベルに下がっている。2011年鮭缶のセシウム137濃度、0.108 Bq/kgは、2009年鮭缶よりも0.024 Bq/kg 多いが、この、0.024 Bq/kgのセシウム137は、福島原発事故由来の可能性がある。

セシウム134は、4検体のいずれからも検出されなかった。半減期が2年であるため、核実験由来のセシウム134が2009年鮭缶に存在しないことはわかっている。2011年以降の鮭缶に存在し得るセシウム134は、2015年9月に検査が実施された頃には、検出限界値以下になってしまっている。

考察

ストロンチウム90も、トリチウム(自由水と組織結合水の両方)も、2011年鮭缶、2011年鮭缶、2012年鮭缶、2014年鮭缶の4検体のどれからも検出されなかった。

缶コードによると、2011年鮭缶が加工されたのは、2011年8月9日である。(缶コード詳細については、こちらを参照。)2011年鮭缶の缶コードには、「スキーナ川(Skeena River)」を示すシンボルが含まれているが、これは、この鮭の母川がスキーナ川であることを意味している。(2009年、2012年と2014年の鮭缶には同様の母川の指定がされておらず、なぜ、2011年鮭缶のみに指定されているのか不明である。)ヴァイタル・チョイス社は、次のように述べている。
「鮭のほとんどは、状況さえ許せば、母川に戻るので、すべての鮭は、母川である特定の川により区別することができる。なぜ、2011年鮭缶が特に「スキーナ川」と指定され、他の鮭缶に同様の指定がなかったのかは不明である。鮭は、河川系に繋がる海や湾の広域で、さまざまな漁法により捕獲されるものである。」
しかし、この鮭がスキーナ川で捕獲されたのか、スキーナ川付近の太平洋で捕獲されたのかについての情報はない。2011年に捕獲された鮭が、どのようにして、福島事故由来のセシウムに曝露したのかは、その鮭が、母川に戻るところだったのか、川を下ってきたのかによるが、これについて知る術もない。事故後最初の5年間の福島事故由来の放射性物質の海洋への放出と輸送をレビューした論文の情報によると、この2011年に捕獲された鮭は、海か川に落ちた大気中降下物に曝露した可能性が強い。

興味深いことに、2011年、2012年と2013年に、アラスカの川で捕獲された鮭の切り身の放射能検査が、カリフォルニア大学バークレー校の原子力工学部によって行われていた。この検査では、2011年に捕獲された鮭から福島事故由来のセシウム134とセシウム137が、微量だが検出されていた(結果報告はこちら)。曝露経路については、鮭が川で捕獲されたことと、そのタイミングから考慮し、次のように示唆されている。
「(前略)鮭がセシウムに曝露したのは、太平洋で過ごした間ではなく、(少量ながら)川の水に集積・濃縮した大気中降下物からだった可能性がある。」
新宿代々木測定所でのセシウム検査では、検体は、缶から出してそのまま、乾燥させずに測定され、測定結果は、湿重量で報告されている。カリフォルニア大学バークレー校の測定室の結果は、「分析に用いられた重量は、湿重量、または凍ったままの鮭の重量であり、オーブンで焼かれ、湿重量よりもかなり少なくなった、『乾重量』ではない。」と述べられている。2012年と2013年の鮭から検出された核実験由来のセシウム137濃度の0.14 Bq/kgが、実際に、測定時の乾重量から湿重量に換算されて報告されているものだとしたら、鮭缶で検出された0.080〜0.088 Bq/kgよりも高いことは興味深い。(乾重量から湿重量に換算されているのかをウェブサイトのコンタクトフォームから問い合わせたが、返事はなかった。)

FDA(米国食品医薬局)がアラスカ州で行っている魚介類の放射能検査(詳細はこちら)では、検査結果(2016年の結果はこちら)は湿重量で報告されているが、検出限界値が1 Bq/kgを超えているので、鮭缶の結果との比較にはならない。

鮭ではないが、2012年の太平洋クロマグロの研究では、福島事故後のセシウム濃度が示されてはいるが、ここでは、検査結果が乾重量で報告されているので、鮭缶の結果と直接比較することはできない。しかし、鮭缶から検出された核実験由来のセシウム137濃度の裏付けとなるデータには、下記のようなものがある。
1)日本政府の環境放射線データベースから、2000年以降の鮭の放射能検査を抜き出してまとめた集計データは、こちらからアクセスできる。2)東京大学と秋田放射能測定室「べぐれでねが」の共同研究では、「べぐれてねが」で乾燥・濃縮された試料の高精度の測定が、東京大学で行われる(共同研究の論文:英語日本語)。この共同研究では、2014年に北海道産の白鮭からセシウム134が検出された(報告はこちら)が、2015年の北海道産の白鮭からは検出されなかった(報告はこちら)。「べぐれてねが」ウェブサイトで公表されている検査結果は、乾重量から湿重量に換算してある。2015年の白鮭から検出されたセシウム137は、0.0727 Bq/kgだった。

結論

このプロジェクトで鮭缶から検出されたセシウム137は、ほとんどが核実験由来のもので、通常よりもはるかに低い検出限界値が用いられなければ、検出されなかったレベルである。ストロンチウム90もトリチウムも、検出限界値以下であった。2011年鮭缶から検出されたセシウム137は、他の3検体よりも少し高く、この差異は福島原子力発電所事故由来と言えるかもしれない。

この結果をどう考えるか?


まず、最初に断っておくが、「食べるべきか、食べないべきか」というアドバイスをするのが、この記事の目的ではない。その決断を下すにあたり、役立つかもしれない情報を、下記に提供したいと思う。食品の放射能検査結果についての事実をいくつか学ぶことにより、放射能測定結果の数値を客観的にとらえること、さらに、詳細な情報を得た上で、食べるかどうかという個人的な決断を下すことができるのではないだろうか。

1. 今回の鮭缶の放射能検査で、ごく微量のセシウム137が検出されたのは、次のような理由であることに留意すべきである。
a) 実際に検査が行われたということ。b) その検査が、ごく微量のセシウム137を検出できるほど精度が高かったということ。
2. 多くの食品には、自然由来と人工由来両方の、バックグラウンド放射性物質が含まれている。


米国FDAが行っている、トータル・ダイエット・スタディには、放射性物質の分析も含まれており、セシウム137とストロンチウム90が市場に流通している食品に含まれていることがわかっている。しかし、調査報告書(最新のは2006〜2014年)を見ると、3つの食品(食品番号74、320と376)以外は「ゼロ」と表示されているので、ほとんどの食品にはセシウム137が含まれていないじゃないか、と思ってしまうかもしれない。だが、よく見ると、ひとつの食品について検査される複数(ほとんどの食品で10〜12)の検体のすべてで、セシウム137が「報告限界値」の5 Bq/kg 未満の場合のみ、「ゼロ」と報告されているにすぎない。もしも、ひとつの食品について検査される複数の検体のひとつからでも、5 Bq/kgを超えるセシウム137が検出された場合は、平均値、標準偏差と最大値が示されている。(ちなみに、食品番号74のレーズンブランシリアルでは最大値が10.8 Bq/kg、食品番号320のかぼちゃのベビーフードでは最大値が93.3 Bq/kg、食品番号376のサラダドレッシングでは、最大値が40.5 Bq/kgである。)

ゆえに、この「ゼロ」は、正確には、「<5 Bq/kg」と表示されるべきである。また、放射能測定値の報告では、検出限界値(この調査でのセシウム137の検出限界値は、おそらく1.0 Bq/kgであると思われる)を明記し、「ゼロ」ではなく、「ND」("not detected" 不検出)と記す方が、より正確である。

この調査では、ストロンチウム90に関しては、「報告限界値」が0.1 Bq/kgであるが、報告書(このPDFの22〜29ページ)を見ると、かなりの食品から微量のストロンチウム90が検出されているのがわかる。

3. 魚介類の放射能検査では、検査された特定の個体に含まれている放射性物質しか測定できない。近くで捕獲された他の個体でも似たような傾向が見られるかもしれないが、海のどこを泳いで何を食べてきたかにより、取り込んだ放射性物質の量が異なる可能性がある。

4. もうひとつ重要なことは、放射性物質の量がどのように説明され、何と比較されるかということである。

大気、飲料水や食品に含まれる放射性物質への曝露の結果の被ばく線量は、頻繁に、「CTスキャンやレントゲン何回分」や、「飛行機でのフライト何時間分」という比較をされているが、これは紛らわしい。CTスキャンはレントゲンは、X線による「外部被ばく」、飛行機でのフライトは、宇宙線による「外部被ばく」であり、どちらも、曝露の時間は限定されている。その一方で、呼吸や飲食により放射性物質を取り込む「内部被ばく」は、放射性物質が体内にとどまっている間、ずっと持続し続ける。さらに、体内に取り込まれた放射性核種には、特定の臓器に蓄積し、影響を与えるものがあるため、外部被ばくと内部被ばくを被ばく線量のみで比較することは、適切ではない。

また、飲料水や食品に含まれる放射性物質の濃度は、(米国では)FDAによって決められた基準値(介入レベル)である、「DIL(Derived Interventional Level)」と比較されることが多い。DILとは、ここで説明されているように、「輸入食品および国産食品の放射性物質濃度のガイダンスレベル」である。セシウム134とセシウム137を合わせたセシウム合算のDILは 1200 Bq/kg 、ストロンチウム90の DIL は、160 Bq/kg である。(DILがどのように算出されたかについては、ここに詳しく説明してある。)なお、福島原発事故以来、米国内外の2つのグループが、食品中のセシウム基準値の引き下げを提案している。米国のとある連携グループは、セシウム合算のDILを1200 Bq/kg から 5 Bq/kgに引き下げることを推奨しており、また別の2つの国際組織は合同で、EU(欧州連合)のベビーフードの基準値を370 Bq/kgから8 Bq/kgに、その他の食物の基準値を600 Bq/kgから16 Bq/kg に、引き下げることを推奨している(これについては後述を参照のこと)。

DILは、PAG(防護対策指針)に基づいているが、PAGは、FDAウェブサイトで、「PAGとは、防護対策を用いて個人への被ばく線量を制限すべきであるとみなされる、放射線被ばく線量のレベルである」と説明されている。1998年に、年間実効線量 5 mSv が PAGとして採用されたが、この線量とは、実質、放射線被ばく由来のがん死が1万人につき2人増えることを受容するものである。(このトピックに関するFDA文書はかなり複雑であるが、2011年4月14日付けのForbes記事で、もう少しわかりやすく説明してある。)

現在のセシウム134&137のDILである1200 Bq/kgは、1986年に設定された「LOC」と呼ばれる「懸念レベル」の370 Bq/kg が、1998年に更新されたものである。介入レベルが370 Bq/kgから1200 Ba/kgに引き上げられた理由は、LOCは、食物が100%汚染されていることを仮定していた一方、DILは、汚染が30%であると仮定しているからである。だが、DILもLOCも、PAGが5 mSvであるという点では、実質同じである。つまり、年間実効線量の5 mSvに達するには、食物の汚染度が低い(DILでは30%)場合は、高い場合(LOCでは100%)よりも、多くの汚染食品を食べれる、というわけである。

ここで言及しておくと、セシウムの1200 Bq/kgというDILは、EUの輸入食品に対する基準値の600 Bq/kgの2倍である。また、日本の放射性セシウムの現基準値の100 Bq/kgは、年間1mSvを最大許容線量として算出されているが、DILはその10倍である。さらに、福島原発事故直後に、年間5 mSvを最大許容線量として日本政府が暫定規制値と設定した500 Bq/kgの、2倍以上である。(日本の食品における放射能規制値については、このPDFを参照のこと。日本の現基準値である100 Bq/kgは、流通食品の50%が汚染されているという仮定に基づいている。)

前述したが、2つのグループ、米国の「Beyond Nuclear」とその連携グループ、および、国際組織「フードウォッチ」と「IPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部」が、食品中に許容されている放射性セシウムの量を引き下げることを、次のように推奨している。
a)米国のDILの1200 Bq/kgを、5 Bq/kgに引き下げ(Beyond Nuclearとその連携グループ)b)EUの輸入食品の基準値をベビーフードと乳製品で370 Bq/kgから8 Bq/kg、その他の食物で600 Bq/kgから16 Bq/kgに引き下げ(フードウォッチとIPPNWドイツ支部)
Beyond Nuclearとその連携グループの、セシウム134と137合わせて5 Bq/kgに引き下げるという推奨は、ベラルーシの病理学医、ユーリ・バンダジェフスキー氏による、セシウム137の健康影響についての研究に基づいている。

フードウォッチとIPPNWドイツ支部による推奨は、ドイツ放射線防護協会による研究に基づいており、原発の平常運転時に、放射性物質が大気中と水中に放出される場合の一般市民への放射線暴露の制限値とされる年間最高0.3ミリシーベルトが元となっている。以下、フードウォッチとIPPNWドイツ支部の報告書(英語PDF日本語PDF)から、重要なポイントを抜粋する。
「食品中の放射性核種に関して公的に規定された制限値は、市民を健康障害から保護するものだ。ただ有害化学物質の場合と異なって、それ以下の放射能であれば害がないというしきい線量がない。そのため、「危険ではない」とか「害がない」、「心配ない」といえるような微量の放射線量もない。上限値や制限値を規定するとは、規制作成者が規制作成者にとって容認できると見られる病人数と死者数をその値によって規定するということだ。(中略) 
この目的を達成するため、要求する制限値を算出するに当たり、最大年間実効線量として0.3ミリシーベルトを採用した。ドイツの放射線防護法はこの値を、原発の平常運転時に放射性物質が大気中と水中に放出される場合の放射線暴露の制限値としている。(中略) 
これまでのEUの放射性セシウムの制限値は乳幼児用食品で8 Bq/kgに、その他のすべての食品で16 Bq/kgに引き下げなければならない。」

謝辞

ヴァイタル・チョイス社とBR氏には、鮭缶の提供について、新宿代々木市民測定所といわき放射能市民測定室「たらちね」には、測定の提供について、そして最後に、NK氏とAT氏には、鮭缶の日本到着後の搬送について、深くお礼を申し上げる。

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この論文についてのツイートまとめはこちら 関連新聞記事のツイートまとめはこちら
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FCCJウェブサイトの会見告知の和訳

福島第一原子力発電所のトリプル・メルトダウンから約5年が過ぎようとしている今、注目されているのは、放射線被ばくが周辺住民、特に子どもに及ぼし得る長期的な健康影響である。

福島県では、事故当時18 歳以下だったおよそ370,000 人の子どもたちを対象に、大規模の甲状腺超音波スクリーニング検査が行われている。

福島県での小児甲状腺がんの発見率が事故前の発症率よりはるかに高いにも関わらず、福島県の医療当局と日本政府は、その原因は福島事故ではないと主張している。

事故直後に何万人もの住民が避難したこと、そして、福島県で生産された牛乳や他の農産物の販売が禁止されたことがその理由として挙げられている。当局は、国際的に著名な専門家らの支持のもと、甲状腺がんの発症率の増加は、福島県の子どもたちの検査に用いられている超音波機器の精度が高いためであると主張している。

しかしこの主張への大きな反論として、岡山大学・環境疫学教授の津田敏秀氏は、福島で起きている小児甲状腺がんの過剰発生が単なるスクリーニング効果ではなく、放射線被ばくの結果であると述べている。

津田氏の論文は、国際環境疫学会が発行する医学雑誌「Epidemiology(エピデミオロジー)」に今月掲載される予定で、津田氏は10 月8 日に FCCJ で記者会見を行い、研究結果について説明し、質問に答えること…

岡山大学チーム原著論文に対する医師らの指摘・批判への、津田敏秀氏による回答集

以下は、ある日本人医師たちから、岡山大学チームによる『Epidemiology』誌掲載の原著論文「Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014 」(日本語タイトル:2011年から2014年の間に福島県の18歳以下の県民から超音波エコーにより検出された甲状腺がん)に関して、津田氏に寄せられた批判や意見と、それに対する津田氏の回答集である。掲載は、津田氏の許可を得ている。

論文へのリンクはこちら
この回答集のPDFは、以下に埋め込んであるが、こちらからダウンロード可能。
論文発表時の記者会見関連記事はこちら




2015年10月19日                            

 日本人医師の方々から、論文に関して貴重なご指摘・ご批判を受け取りましたので、お答えさせていただきます。

 この回答集でお答えしたご指摘・ご批判は、太字で表示し、通し番号をつけさせていただきました。なお、回答中で使われている「EBM」とは、Evidence Based Medicine の略で、日本語では「科学的根拠に基づいた医学」とされます。EBMは、もともと Science Based Medicine というネーミングだったようです。この場合、科学的根拠とは、人を観察し人単位で分析された結果もしくはそれを記載した論文ということになります。つまり疫学方法論で分析された結果もしくはそれを記載した論文です。

 まず最初に、医師によるブログ記事2つを取り上げさせていただきます。


ブログ記事1(リンク:http://drmagician.exblog.jp/23772300/) 
1. この論文を見ると,まずethicsに関する記載がありませんのでこの時点で論外で,「はたして倫理委員会をちゃんと通して論文を書いたのだろうか?」という疑問があります(Epidemiology誌では記載が求められるはずですが査読でなぜひっかからなかったんでしょうね?).
回答:論文中に書いてありますので、ご確認ください。今日、医学論文は研究倫理に関する記述がなければなかなか掲載してもらえません。論文中に書いてある論文も結構あります。
2. そ…