スティーブ・ウィングによる、マンガノ&シャーマン共著の福島原発事故後の先天性甲状腺機能低下症についての論文の批評


ノース・カロライナ大学の疫学研究者であるスティーブ・ウィングは、マンガノとシャーマン共著の研究論文「福島原発事故後の米国ハワイ州と西海岸4州での大気中のベータ線量増加と新生児における甲状腺機能低下症の傾向」が2013年1月29日に掲載をアクセプトされた後での批評を、第三者から依頼された。ウィングが批評したのは、このリンクhttp://www.scirp.org/journal/PaperInformation.aspx?PaperID=28599で見られる、Open Journal of Pediatricsの2013年3月号に実際に掲載された最終バージョンではない。

2013年2月27日付けのウィングの批評は著者らにも送られたが、直接の返答はなかったようである。しかし、ウィングが批評で言及しているポイントのいくつかは最終バージョンに含まれていなかったため、何らかの修正は行なわれたと見える。

ちなみに、この論文を掲載した医学雑誌”Open Journal of Pediatrics”は、実は営利目的を持つ”(研究者を)食い物にする雑誌”として知られており、真剣な科学的ピアレビューの過程を持たないようである。読者の中には、この情報を興味深いと思う人達がいるかもしれない。

ウィングの許可を得たので、その批評の和訳を掲載する。

なお、関連記事の「アルフレッド・ケルプラインによる、マンガノ&シャーマン共著の先天性甲状腺機能低下症論文に対しての編集者への質問状 英語原文」はこちらである。
http://fukushimavoice2.blogspot.com/2013/05/blog-post_29.html

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ジョセフ・J・マンガノとジャネット・D・シャーマン共著「福島原発事故後の米国ハワイ州と西海岸4州での大気中のベータ線量増加と新生児における甲状腺機能低下症の傾向」についてのコメントと質問

スティーブ・ウィング

この記事は、米国西部5州と他の36州における先天性甲状腺機能低下症の症例数の割合を、2010年と2011年の一定期間において比較したものである。著者らは、米国西部5州においての福島由来のヨウ素131のフォールアウトが、他の州よりも多かったと提案している。そして、もしもこれが先天性甲状腺機能低下症の発症に影響があるとしたら、2011年と2010年の症例の割合が、これらの州にフォールアウトが蓄積した後の数ヶ月間は増加するだろうと主張している。この比較の原理は、空間的および時間的変動を用いて環境因子への曝露の影響を評価するという点では論理的であるように見えるが、データ収集および分析が不透明であり、内面的に矛盾している。

序文
「序文」では、インディアン・ポイント原発近辺の4つの郡における先天性甲状腺機能低下症の症例数を全米の症例数と比較した結果が取り上げられている。2つの時期が比較されているが、この2つの時期を選んだ理由が、被ばく量に変化があったためかまた別の理由かは明らかでない。インディアン・ポイントでの、1970年から1993年の大気中へのヨウ素131の放出量が、米国の72基の原発の中で5番目に最大だったと述べられている。著者らがなぜ、先天性甲状腺機能低下症の分析時の4年〜13年前の放出データを提示したのかは明確でない。1997年から2007年に起こった先天性甲状腺機能低下症が、1970年から1993年の間にヨウ素131に被ばくしたせいでないのは明確である。原子炉からの放出が先天性甲状腺機能低下症を起こすということに興味があるのなら、著者らはなぜ、先天性甲状腺機能低下症が起こった時期にもっと近い時期からの推定放出量を用いなかったのか、そしてなぜ、全米で5番目ではなく、一番放出が多い原子力施設付近の記録を分析しなかったのかを説明するべきである。

方法
「表2」と表示された2つの表のうちの最初の表は、福島メルトダウン後の米国での雨水中のヨウ素131の77の測定値を示している。文献リストで指定されたURLからは情報ソースが見つからなかったが、EPAの別のURLでは雨水中のヨウ素131の157の測定値が見つかった。この表から省かれた数値は、未検出値だったのだろうか?もしも、州ごとの平均値に興味があるのなら、未検出値も、例えば、検出限界値の半分であるなどの仮定に基づいて、平均値の中に含まれるべきである。著者達は、最大の測定値のいくつかは、後の先天性甲状腺機能低下症の分析で「対照群」と分類されている州(実際は「フォールアウトが低い」と表現されるべき州)であるフロリダ州ものであり、そして、先天性甲状腺機能低下症の分析から省かれているマサチューセッツ州のものであると言及している。この理論的根拠は示されていない。

雨水中のヨウ素131は、牛乳の摂取を介したヨウ素の取り込みに関連しており、これが米国での集団の甲状腺被ばく量推定値の大半である。この先天性甲状腺機能低下症の分析においての被ばくグループは、なぜ、キセノンやクリプトンなどのベータ線放出ガスに影響されるであろう、大気中の総ベータに基づいているのか?キセノンやクリプトンなどのベータ線放出ガスは、福島からの放出だけでなく、米国の原子炉の通常運転からの放出に常に存在している。2番目の表2では、未検出値はどのように扱われているのか?検出限界値は何だったのか?

著者らは「月ごとの先天性甲状腺機能低下症の症例数」を電話調査で得たと言う。個別の症例での誕生日も得られなかったのであれば、その後の分析において、どのように誕生日ごとに分類できるであろうか?結果のセクションで、著者らは、個人情報保護守秘に関する懸念のため、人口が少ない州からのデータを得ることができなかったと言及している。3月の症例に対しての個人の誕生日が得られたものもあるが、そのような個人情報保護守秘に関する懸念は考慮されたのだろうか?また、データから省かれた州の中には、ニューヨーク州のように、小さくない州もいくつか含まれている。この部分のデータ収集は不透明であり、結果を分析する人達にとっては、フォールアウトが多かったまたは少なかったグループがどのようにして構成され、欠損しているデータがフォールアウトに関連しているのかということを明らかに知る事が重要である。

「州のプログラムに、2010年と2011年の間で、時間的比較にバイアスを与えるような、先天性甲状腺機能低下症の定義の変化がなかったことを確認するように依頼した。」という供述があるが、定義を変えた州はあったのか?もしあったのなら、どの州か?その次の文章で使われている”intra-state”(州内)は、正しくは”inter-state”(各州間)とするべきである。調査システムによる症例数は、その調査の締め切りの日までは仮の数字であることが多い。電話調査で報告された症例数は、最終版だったのか?もし最終版でないなら、その症例数は公式記録で報告される症例数と異なるかもしれず、現在の分析を最終データを用いて再生することができなくなる。

結果
この研究デザインのひとつの強みは、時間枠の使用である。それ故に、先天性甲状腺機能低下症の発症期間の選択が重要となってくる。2011年3月17日生まれの先天性甲状腺機能低下症の症例が、その日に到着した福島由来のヨウ素131によって、時間差なしに引き起こされたと言えるだろうか?牛乳を介した経路なら、ある一定の時間を過ぎないと被ばくを起こすとは考えられない。ひとつの疑問は、福島のフォールアウトによる先天性甲状腺機能低下症が最初の被ばく量によって起こされるのか、数日や数週間にわたる集積線量によって起こされるのか、ということである。どちらにしろ、3月17日(または、表3の中の一行においては3月15日)が被ばく期間で一番最初の日の可能性がある日なので、その日に誕生した症例を数のうちに入れるという選択は、議論の上で正当化される価値がある。

表3は主な結果を表しているが、ラベリングと数字が混乱している。最初の行で、なぜ3月17日の代わりに3月15日を使うのか?3月15日〜4月30日の症例数が、3月17日〜6月30日や3月17日〜12月31日よりも多いのはなぜか?ここでの2番目と3番目の期間での西部5州におけr症例数を足したら、最初の期間の症例数となるが、これはラベリングエラーだと示唆される。しかし、他の州での症例数を足しても同様の結果がみられない。表3の中のp値は、「議論」で言及されるものと合致せず、何に関連し、どのように得られたのかということの明白さが不十分である。

議論
このパラグラフでは、著者らは次のようないくつもの良いポイントを示しており、それは、論文原稿を改善するための基盤となり得る。「この報告内で使用されたデータを技術的に改善することができる。このうちのひとつは、福島事故後の米国においての、ヨウ素131を含む特定の放射性物質の環境レベルについての、もっと正確な時間的および地理的データを得るということである。さらに、フォールアウトの結果としての人間への特定の被ばく量の推定は、健康リスクの将来的な分析において役に立つだろうとも思える。また、この報告のデータに次のような技術的変化を加えることもできる。ベースラインとして2010年のみよりもっと多くの期間を用いること、2011年以降の先天性甲状腺機能低下症のデータを含むこと、そして、2010−2011年の州ごとと月ごとの生産数が公式発表されたら、症例数の傾向を発症数に換算すること、などである。」

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