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ウラジミール・ヴェルテレッキー 第1部「遺伝子学者が原子力事故の影響を記録する」

(この記事は、2013年3月27日にFukushimVoiceオリジナルサイトに掲載されました。)
http://fukushimavoice.blogspot.com/2013/03/blog-post_7464.html



ヴェルテレッキー博士のことを知ったのは、2012年の夏だった。下記のリンクの英語記事から、チェルノブイリの影響による先天性奇形の研究をしている人がいると知り、研究論文を探して読んだ。


英語記事「遺伝子学者が原子力事故の影響を記録する」



研究論文(英語) 「チェルノブイリから影響を受けた地域における奇形」





当時は、ウクライナのどこかで神経管閉鎖不全が増加している、そういう漠然とした印象しかなく、しかし、このような研究論文が、ロシア語でなくて英語で書かれていることをありがたく感じた。


それから間もなく、ヘレン・カルディコット博士から、先日ニューヨークで開催された国際シンポジウムの講演者選出の相談を受けた時、「ウラジミール・ヴェルテレッキー」という名前が、講演を承諾した人のリストに入っているのに気づいた。その後、カルディコット博士の日本講演ツアー用の資料をまとめている時に、ヴェルテレッキー博士の研究結果も取り入れた。


そして、つい2週間前のニューヨーク医学アカデミーでの国際シンポジウム「福島原発事故の医学的・生態的影響」で講演者の案内役をさせて頂いたが、その時に一番最初に会場に来られた講演者が、ヴェルテレッキー博士であった。ノートパソコンを、意外にも真っ赤なネオプリンバッグに入れて小脇に抱えておられ、その赤色と、それにそぐわないような落ち着いた物腰が印象に残った。

実際の講演時には、所用で会場を出たり入ったりしていたので集中して聞くことができなかったが、生の講演で聞いた切れ切れの部分や質疑応答時の答えから、引きつけられるような内容と話し方だと思った。そして、講演内容が書かれたものが欲しい人はメールを下さい、と言われているのを聞き、早速メールを送った。

シンポジウムから数日経って、講演資料のPDFは別メールで送信されるが、資料をリクエストしてくる人達とは興味の対象が似通っている事が多いから、連絡を取って来る人がどういう活動をしているのか興味がある、あなたの活動のことも聞かせてほしい、と言うメールを頂いた。

FRCSRの活動を手短かに説明してサイトのリンクなどをお送りしたら、大変興味深い内容のサイトである、相互リンクをしたいがどのようにすれば良いか?というお返事を頂いた。

その時点で既に、送って頂いた講演資料に目を通し始めており、その内容と、メールでの対応に、知識が豊富であり倫理観が高く、自分のエゴや名声のためにでなく、チェルノブイリ事故から何かを学び、そして何かを変えて行きたいという真剣な姿勢を感じた。講演資料を読み進み、シンポジウムのアーカイブ動画を見て、ヴェルテレッキー博士の、時代背景に関する知識と、ウクライナの文化的な特徴を理解した上での内容に感銘を受けた。

是非ともまとめた情報を日本語で紹介したいと思ったが、元々の記事、講演動画と講演資料が、似通っていながらもお互いを補足し合うような内容であり、全部を紹介しないといけないと思ったので、結果的に3部作となった。

ここでは、ヴェルテレッキー博士の研究や理念の紹介ともなる英語記事の抜粋和訳を紹介する。第2部は、実際の講演動画の書き起こし和訳である。心に響くような講演だったので、それが伝わるように意訳をした部分もある。第3部は、講演資料の抜粋和訳で、講演内容をさらに詳しく説明してある。



                                                             ***


「遺伝子学者が原子力事故の影響を記録する」





小児科医で臨床遺伝子学者であるウラジミール・ヴェルテレッキーは、まだ医学遺伝子学部が稀だった1974年に、南アラバマ大学で医学遺伝子学部を始めた人である。


チェルノブイリ事故後、健康調査で放射能被ばく由来の癌に焦点が置かれた中、ヴェルテレッキーは、小児の発達、特に先天性奇形に関する集団調査を始め、それは今でも続いている。(ヴェルテレッキーはポーランド生まれであり、チェルノブイリで影響を受けた地域の言語に堪能である。)


この小児発達調査の結果は、国際機関や科学者の間で、放射能汚染された食物からの内部被ばくによる先天性奇形への影響についての議論に新たに火をつけた。ウクライナに設置された先天性奇形集団モニタリングシステムは、米国医学遺伝子学チームが2000年に南アラバマに設置したシステムに基づいている。


先天性奇形の集団モニタリングを実施しないと、汚染地域で生まれる小児の発達への汚染物質の影響を見つけるのは難しい、とヴェルテレッキーは言う。 2011年3月の福島原発事故以来、ヴェルテレッキーは、放射能の人体の健康と小児発達への影響に関する多くの国際科学会議で基調講演を行なっている。


学会は、ウクライナでの調査結果を共有する場のみならず、「人間社会が予防の方法を知っているなら、子供には奇形なしで生まれる権利がある」と言う事実を強調できる場でもある、とヴェルテレッキーは力説した。「災害がある度に、現在と将来にわたって子供を脅かす因子が環境内に加えられるので、我々の仕事は尽きない。」


「人間に大惨事をもたらすのは、原子力事故の規模そのものより、その後の官僚の対応とその対応によってもたらされる国民のパニックである。公的機関の対応 にありがちだが、国民は、馬鹿のように扱われて、話の『良い半分』だけを聞かされるべきでない。人々には、事実を知る権利と責任者を信じる権利がある。」


チェルノブイリや福島原発事故の結果が、広島と長崎での原爆とよく比較されているのは間違いである、とヴェルテレッキーは信じている。原爆の影響は、大量だが短時間の外部被ばくである反面、チェルノブイリと福島の影響はまだ続いており、環境に残存する放射性物質が、吸入や飲食により体内で蓄積する。


ヴェルテレッキーによると、汚染区域のきのこをひとつ食べるだけで、何百もの胸部レントゲンと同量の放射能被ばくを受けるかもしれず、この蓄積は妊婦において最も大きな懸念を起こす。放射能は、先天性奇形を起こすだけでなく、遺伝子異常を起こして将来の世代において長期にわたる影響を与え続ける要因となるからである。


ウクライナのポリーシャ地域の集団調査は、まだ放射能汚染された環境で暮らし、子供が、生まれた時から放射能被ばくを受ける集団の研究である。この地域は、放射能の人間の健康と将来の世代への長期に渡る影響について、研究者が学ぶ事ができる「自然実験場」である。



研究では、放射能以外に、乳児の脳のサイズを小さくするリスク要因を調べなければいけないが、これは妊娠中の母親のアルコール摂取、母親の栄養パターンや、その他の環境因子を含む。


ウクライナの研究者達は、現在、米国立衛生研究所のサポートの下、ウクライナと世界各地でのアルコールの胎児への影響について米国大学6チームと共同研究をしている。また別の研究チームは、妊婦における放射能蓄積の分析をしており、ヴェルテレッキーは国際的共同研究のコーディネーターである。


これらの研究のレビューの結果、米国立衛生研究所は、現在行なわれている研究拡大のための資金を認めた。ヴェルテレッキーの目的のひとつは、今の科学者の国際研究コンソーシアムの拡大である。「様々な科学的あるいは人道的分野のどれかひとつだけでは、チェルノブイリや福島から生じる複雑な問題に対応することができないから、」だそうである。

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