メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について


 *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。

 2024年2月22日に第50回「県民健康調査」検討委員会(以下、検討委員会)が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。

 今回公表されたのは、5巡目と6巡目の 3ヶ月分のデータおよび、25歳時と30歳時節目検査の6ヶ月分のデータである。また今回、甲状腺検査に関するアンケート調査の結果も報告された。事故後 13年が経過し、甲状腺検査関連の情報も膨大かつ複雑となっている。このブログでは、議事録などの公式情報のみでは察することが困難な「その時のリアルな印象」なども含め、備忘録的に記録している。今回の記事では、新たに公表されたデータをまとめた上で、更新情報のない1〜4巡目のデータも記載している。

 なお、記者会見を含まない会議自体の公式動画へのリンクは、配布資料ページの「動画配信」セクションに掲載されている。この公式動画は、2〜3ヶ月後に議事録が公表されると削除され、同セクションは「議事録について」に置き換えられる。なお、会議および記者会見は、Ourplanet-TVのアーカイブ動画で視聴できる。

甲状腺検査のアンケート調査について

 このアンケート調査は、対象者と保護者の甲状腺検査のメリット・デメリットの認知度および甲状腺検査についての認識を確認するために 2023年 8月に実施されたものである。背景状況を説明しておくと、もともと甲状腺検査は、原発事故後の甲状腺の状態を調べるために始まったものである。それゆえに同意書に伴うお知らせ文(こちら)はごく簡素なものだったが、多くの甲状腺がんが見つかるという想定外の展開となった。被ばくの影響が時期尚早に否定される一方、多数の甲状腺がんが発見された説明として過剰診断論が言及されるようになり、一部の検討委員や部会員(特に2017〜9年の任期)の間で強く支持されている。ちなみに福島医大としては、被ばくの影響は考えにくいが、診断ガイドラインを設定した上で手術適応例のみ手術しているので過剰診断でも過剰治療でもなく、潜在がんが年齢が上がるとともに検出されているというのが公式認識のようである。

最初のお知らせ文
 これと同時に、同意書にともなうお知らせ文では検査のメリット・デメリットが十分に説明されておらず、インフォームド・コンセントの体をなしていないとの指摘も出た。このため、県民にメリット・デメリットを周知すべく、お知らせ文が改訂された。そして、2020年度から 3年間実施された5巡目でお知らせ文改訂版が行き渡ったこともあり、メリット・デメリットがどう認識されているか調べてほしい、との評価部会の要望に応える形でアンケート調査が実施された。調査の際には、同意書とお知らせ文とともに郵送される冊子「検査のメリット・デメリット」も配布された。

お知らせ文改訂版(実際に対象者に郵送されるもの)

 アンケート調査の報告はこちらでダウンロードできる。回答率が 22.8%と低いためデータの有効性を疑う意見(論文などに使えるデータではないなど)も出ている。結果を大雑把にまとめると、対象者と保護者の 35〜58%がメリット・デメリットを認識しており、44〜70%が今後も受診するつもり、あるいは保護者が対象者に受診して欲しいと思っていることが示された。50〜54%がメリットが分かりやすいとする一方、やや低い割合の45〜48%が、デメリットが分かりやすいと答えた。メリット・デメリットが分かりにくい理由として、「書いてある単語や文章が難しい」「必要な情報が足りない」「文章が長い・量が多い」などが挙げられた。

 振り返ると、2017~9年の任期の評価部会では、過剰診断論者が学校検査の廃止を推しつつ、同時期に公表されたSHAMISEN勧告やIARC国際専門家グループ「TM-NUC」の提言の中身をメリット・デメリットに盛り込むべきと主張特に甲状腺の集団スクリーニングを不必要とみなし、デメリットの周知を強調)していた。その主張と、過剰診断でなく早期発見・早期治療だとする臨床医らとの意見の対立が平行線のまま、お知らせ文改訂案に対する意見や批判が飛び交い、2巡目のまとめについての議論に費やされるべき時間にも食い込んだ。(これらの経緯については、岩波『科学』電子版 2019年2月号と 2019年7月号で言及している。)この時の、”できるだけの事実を詰め込もうとする姿勢”から考えると、県民から「書いてある単語や文章が難しい」「文章が長い・量が多い」という意見が出るのも不思議ではない。

甲状腺検査の結果について

 今回報告されたのは5巡目6巡目25歳時節目検査、および30歳時節目検査の、2023年930日時点のデータである。5巡目と6巡目は前回の第 49回検討委員会2023年1124日開催)で公表されたものから3ヶ月分のデータで、6ヶ月ごとに公表される節目検査は、第48回検討委員会2023年720日開催)以降の 6ヶ月分のデータとなる

 結論から言うと、新たに悪性ないし悪性疑いと診断されたのは7人(5巡目で 4人、25歳時節目検査で 1人、30歳時節目検査で 2人)、新たに手術で甲状腺がんと確定したのは 12人(5巡目で 7人、25歳時節目検査で 3人、30歳時節目検査で 2人)である。これで、これまでの悪性ないし悪性疑いは 328人(うち良性結節 1人)、手術で甲状腺がんと確定したのは 274人となった。

 各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は参考資料 1 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。 

 全体的には、前回の公表データ(第 49回検討委員会で公表された参考資料 6 甲状腺検査結果の状況を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は 7人増えて 328人(良性 1人含む)手術で甲状腺がんと確定された症例は 12人増えて 274人となっている。

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現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。



 註:がん登録データの43人は、2018年までの地域・全国がん登録データとの突合で見つかった人数第19回評価部会 資料2で、第16回評価部会で公表されてこの記事に収録された24人資料に、第18回評価部会で判明した3人資料と第19回評価部会で2018年データから追加された16人資料が加わっている。集計外症例 35人(うち甲状腺がん 19人)は、甲状腺外科医の鈴木眞一氏が 2019年から国内外の学会などで報告し、「福島県立医科大学における手術症例の報告」として公表されている。データが突合されていないので実証は不可能ながら、これまで公式に集計外症例と公表されている11人(福島医大の横谷進氏らによる英語論文で報告されており、すべて甲状腺乳頭がん)も、この19人に含まれていると推定される。 

5巡目検査の結果

  5巡目検査は 2020年度から開始され、COVID-19パンデミックによる遅延のため、通常の 2年間ではなく2022年度までの 3年間で実施されているが、数字の動きからほぼ終了に近いと思われる。参考として、2019年度までの実施予定だった 4巡目結果の確定版は、2022年6月末時点での集計データとして、2022年度終了間際の2023年3月20日に公表された。

 2023年9月30日時点での一次検査受診者は 113,941人(うち 7,963人が県外受診)と、前回から 4人しか増えておらず、うち 3人が県外受診者である。結果判定数 113,941人、結果判定率 100%なので、一次検査は実質終了している。受診率は変わらず 45.0%で、4巡目の 7割ほどになる。年齢階級別受診率にも変動はなく、8〜11歳で74.0%、12〜17歳で 57.8%、18歳以上で11.2%である。

 二次査対象者は変わらず 1,346人で、うち新たに75人が二次検査を受診し、7人が細胞診を受診した結果、4人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、5巡目での悪性ないし悪性疑いは 43人となった。この 4人のうち 1人は男性(事故当時年齢1歳)、3人が女性(事故当時年齢3歳、4歳と7歳)で、女性1人が 2020年度対象市町村、残りが 2021年度対象市町村の住民だった。4人の4巡目での判定は、1人が A1、3人が A2のう胞だった。ちなみに、悪性ないし悪性疑い数が 43人と、4巡目の 39人より 4人多くなった理由としては、対象者の年齢が上がるにつれ甲状腺がんが見つかることが多くなるため、と説明された。

 地域別の二次検査実施状況および結果によると、2人が中通り、2人が浜通りの住民だった。悪性ないし悪性疑い43人のうち、6人が避難区域等13市町村、26人が中通り、8人が浜通り、3人が会津地方の住民で、一次検査受診者に対する割合はそれぞれ 0.04%、0.04%、 0.04%、0.02%だった。

 まとめると、5巡目の悪性ないし悪性疑いは 43人(4巡目より4人増)となり、4巡目での結果は、A判定が31人(A1が 10人、A2のう胞が 20人、A2結節&のう胞が 1人)、B判定が 6人、未受診が 6人だった。

 2020年度対象市町村から4人、2021年度対象市町村から3人が新たに手術を受け、5巡目では34人が甲状腺がんと確定し、34人すべてが甲状腺乳頭がんだった。

6巡目検査の結果

 2023年度から始まった6巡目検査では、節目検査に移行する1998〜9年度生まれが外されたことで、 対象者は5巡目から 41063人少ない 211,875人となっている。2023年9月30日時点での受診者は 18,304人で受診率は 8.6%、うち 54.5%の 9,978人で結果が判定されている。その 1.2%となる118人がB判定とされているが、二次検査は、進捗していないため結果は未公表である。

 年齢階級別受診率は、11歳が 26.0%、12〜17歳が 14.4%、18〜24歳が 1.6%だった。

25歳時の節目検査の結果

 2017年度から開始されている25歳時の節目検査の結果は、通常の甲状腺検査とは別に、6ヶ月ごとに公表されている。今回の報告データは2023年9月30日時点のもので1992〜7年度生まれの対象者におけるものである。受診は対象年度にとどまらず、次回の30歳時節目検査の前年まで可能で、追加の受診データも随時報告されていくことになっている。)

 今回の対象者は前回より1人減った129,006人で、86人が新たに一次検査を受診し、受診者数は 11,867人となった。受診率は前回の9.1%から9.2%に上がった。新受診者の半数以上である49人が県外受診者(4,311人)である。結果判定数は前回から 184人増えて 11,858人となり、結果判定率は 0.8%増えて 99.9%となった。なお、2022年度から30歳時節目検査の対象となる1992年度生まれからの受診者数は、一次検査でも二次検査でも増えていない。B判定は 12人増え、二次検査対象者は 647人となった。

 新たに22人(受診率 84.2%)が二次検査を受診し、計 545人の受診者中 535人で結果が確定(確定率 98.2%)している。細胞診受診者は 6人増えて 49人となり、 前回検査未受診の女性1(事故当時年齢14歳)が新たに悪性ないし悪性疑いと診断された。6人の細胞診受診者のうち1人が1992年度生まれ、4人が1996年度生まれ、1人が1997年度生まれだった。

 まとめると、25歳時節目検査における悪性ないし悪性疑い例は23人となり、前回検査は、A1が1人、A2結節が1人、A2のう胞が3人、Bが4人、未受診が14人となる。

 新たに3人で手術が施行され甲状腺乳頭がんと確定診断された。25歳時節目検査の手術症例は17人となり、うち16人は甲状腺乳頭がん、1人は濾胞がんである。

30歳時の節目検査の結果

 2022年度からは、1992年生まれの22,625人を対象として、二度目の節目検査となる30歳時の節目検査が開始されており、今回、2023年9月30日時点での結果が報告された。一次検査の受診者は47人増えて1,571人となり、受診率は 0.2%増え、6.7%となった。県外受診者は 21人増えて583人となり、受診者47人の約半数が県外で受診していることが分かる。新たに88人で結果が判定しており、結果判定率は 2.7%増えて 99.4%となった。うち 8人がB判定とされ、二次検査の対象者は 134人となった。

 新たに32人が二次検査を受診し、二次検査受診者は 107人となり、受診率は 20.4%増えて 79.9%となった。このうち新たに 38人で結果が確定し、結果確定数は 96人、結果確定率は 12.4%増えて 89.7%となった。穿刺吸引細胞診の受診者は 8人増えて13人となり、この8人中 2人(女性)が新たに悪性ないし悪性疑いと診断された。30歳時の節目検査の悪性ないし悪性疑いは5人となり、すべて女性である。今回は、平均年齢と平均腫瘍径、および前回検査の結果が初公開された。

 前回検査の結果は、A2のう胞が1人、Bが1人、未受診が3人である。

 新たに1人で手術が施行され、30歳時の節目検査の手術症例数は3人となり、3人すべてで甲状腺乳頭がんの診断が確定している。

 

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1〜6巡目と25歳時および30歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料 6 甲状腺検査結果の状況」の 9ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)(結果確定版の2016年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん 100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人


本格検査(2巡目)(結果確定版の2020年度更新版はこちら、手術症例更新版はこちら
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      56人
(前回から 1人増)甲状腺がん 56人:乳頭がん 55人、その他の甲状腺がん**1人)                                   未手術症例     15人 


本格検査(3巡目)(結果確定版の2020年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 31(前回から変化なし)
手術症例      29人(前回から変化なし)(甲状腺がん 29人:乳頭がん 29人)
未手術症例       2人


本格検査(4巡目)(結果確定版はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 変化なし)
手術症例      34人(前回から 変化なし)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例     5人

本格検査(5巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 43(前回から 4人増)
手術症例      34人(前回から 7人増)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例       9人

本格検査(6巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 0
手術症例      0
未手術症例     0人

25歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 23前回から 1人増)
手術症例      17人(
前回から 3人増)甲状腺がん 17人:乳頭がん 16人、濾胞がん 1人)

未手術症例       6人

30歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 5人前回から 2人増)
手術症例      3人
前回から 1人増)甲状腺がん 3人:乳頭がん 3人)

未手術症例     2人

合計
悪性ないし悪性疑い 328人(良性結節を除くと 327人
手術症例      275人(良性結節 1人と甲状腺がん 274人:乳頭がん 271 
人、低分化がん 1人、濾胞がん 1人、その他の甲状腺がん**1人)

未手術症例***    53人(5人減)

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年 11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第 7 版    内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

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前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 71人の 1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞 25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低 2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人


3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 31人の 2巡目での判定結果 
A1判定:7人
A2判定:14人(結節 4人、のう胞 10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人


4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 3巡目での判定結果  
A1判定:6人
A2判定:20人(結節 6人、のう胞 13人、結節&のう胞 1人)
B判定:9人
3巡目未受診:4人

5巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 43人の 4巡目での判定結果  
A1判定:10人
A2判定:21人(のう胞 20人、結節&のう胞 1人)
B判定:6人
4巡目未受診:6人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 23人の前回検査での判定結果  

A1判定:1人
A2判定:4人(結節 1人、のう胞 3人)
B判定:4人
未受診:14人

30歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 5人の前回検査での判定結果  (今回、初公表)

A1判定:0人
A2判定:1人(結節 0人、のう胞 1人)
B判定:1人
未受診:3人

メモ:2023年11月24日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、および1〜4巡目の評価部会まとめについて


 *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。

 2023年11月24日に第49回「県民健康調査」検討委員会(以下、検討委員会)が、 新たに任命された第7期(2023年8月1日〜2025年7月31日)の委員構成で開催された。今回も会場とオンラインのハイブリッド形式で、第6期の委員の任期終了直前の委員会だった前回から4ヶ月ぶりの開催となった。

 今回公表されたのは、5巡目の3ヶ月分のデータに加え、2023年度から始まった6巡目の一次検査のデータである。また、甲状腺検査評価部会(以下、評価部会)による「甲状腺検査先行検査から本格検査(検査4回目)までの結果に対する部会まとめ」(以下、「1〜4巡目の部会まとめ」)と、第5期の部会員名簿も公表された。第3・4期と同じ顔ぶれだった部会員に入れ替えがあったが、特筆すべきは、大阪大学の祖父江友孝氏が部会員から外されたことである。祖父江氏は、2巡目の部会まとめ作成時には、任期最後の第20回評価部会で公表された部会まとめ案の記述の一部に不賛同を表明し、「異なる意見のある委員がいたと記述して欲しい」と強調していたが、今回公表された部会まとめの一部は、祖父江氏の意見を反映して大幅に加筆されていた。(第20回評価部会での議論の詳細については前記事を参照のこと。)

 このブログでは、事故後12年が経過して膨大かつ複雑となった甲状腺検査関連の情報を、議事録などの公式情報のみでは察することが困難な「その時」のリアルな印象を備忘録的にまとめている。今回の記事では、今期の検討委員・部会員構成を紹介し、「1〜4巡目の部会まとめ」の加筆・変更箇所に言及後、新たに公表されたデータとこれまでのデータをまとめる。

 なお、記者会見を含まない会議自体の公式動画へのリンクは、配布資料ページの「動画配信」セクションに掲載されている。この公式動画は、2〜3ヶ月後に議事録が公表されると削除され、同セクションは「議事録について」に置き換えられる。なお、会議および記者会見は、Ourplanet-TVのアーカイブ動画で視聴できる。

検討委員および評価部会員名簿

 2023年8月1日から2025年7月31日の二年間の任期に選任された第7期検討委員第5期評価部会員の名簿を貼っておく。検討委員は5人、評価部会員は3人が入れ替えとなった。

「県民健康調査」検討委員会 委員名簿

 新たに検討委員に選任されたのは、今井常夫氏、熊谷敦史氏、菅原明氏、杉浦弘一氏、前川貴伸氏で、それぞれの所属と推薦団体については委員名簿に記されている。注目すべき交代が2例あるが、1例は第3〜4期の評価部会員を務めた今井氏で、今回、第2期の評価部会員から前期の検討委員に移動していた吉田明氏の後任となる。もう1例は、2017年10月の第28回検討委員会から第4期の検討委員に選任され、3期にわたって委員を務めてきた福島大学の富田哲氏で、今期は福島大学からの定年退職に伴い委員も退任となり、同じく福島大学の杉浦氏が後任となった。吉田氏は甲状腺外科医の立場から臨床的視点を持って過剰診断論に反論し、富田氏は医学は門外漢ながらも法律家として法的・倫理的側面から県民への利益を最優先に考慮するなど、いずれも貴重な意見を提供した。この2人と同じ期間、委員・部会員を任命されてきた高村昇氏や室月淳氏が再選任され続ける一方、これまでの甲状腺検査をめぐる問題や議論に精通しつつ患者や県民の利益を護ろうとする、吉田氏や富田氏のような人たちが外されて行くのは遺憾としか言えない。

 なお、第7期の検討委員会で座長に選出されたのは、双葉郡医師会副会長の重富秀一氏だった。どうせまた持ち越しで高村氏が座長になるのだろうと予想していたので、その高村氏が「座長には福島の人が良いと思う」と発言した時は驚いた。重富座長のもと、どのように流れが変わって行くのか未知であるが、前々座長の星北斗氏のように県民よりも省庁に寄りそうようなことはないだろうと期待される。

「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」部会員名簿

 評価部会員として新たに選任されたのは、岡本高宏氏、筒井英光氏、山本精一郎氏の3人である。岡本氏は、検討委員に選任された今井氏の後任で、日本内分泌外科学会の推薦である。筒井氏は日本甲状腺学会の推薦で村上司氏の後任、山本氏は日本疫学会の推薦で祖父江氏の後任となる。

 祖父江氏の交代については、「意外」と「やっぱり」が入り混じった印象である。背景状況を少し説明しておく。初期の評価部会は検討委員との兼任であったが、2017年11月の第8回評価部会をもって、独立した部会員構成での最初の任期(ただし、大阪大学の髙野徹氏のみ異例の検討委員との兼任)となる第2期が発足した。祖父江氏は、日本疫学会の推薦で第2期から第4期まで部会員を務めた。2012年に大阪大学に教授として赴任するまでの18年間在籍していた国立がん研究センターではがん情報の収集と統計に携わり情報元リンク、2021年から同センターのがん対策研究所の副所長にも任命されている。(余談だが、IARC国際専門家グループ「TM-NUC」の日本人メンバーだったKayo Togawa氏は、2021年からがん対策研究所に所属しており、現在は、第5期も引き続き部会員に選出された片野田耕太氏が部長であるデータサイエンス研究部の室長である。)(これも余談だが、異例の兼任を務めた髙野氏は、過剰診断論を強く主張し、任期終了後に若年型甲状腺癌研究会を立ち上げており、祖父江氏もコアメンバーに名を連ねている。)

 祖父江氏は、第2期での2巡目結果の解析手法に疑問を呈する一方この記事を参照)、当時並行して行われていた甲状腺検査の同意書の改訂では、利益・不利益の記述を特に重要視し、「TM-NUC報告書1で過剰診断リスクのため不利益が利益を上回ると専門家が判断していた」と強く主張していた。(「TM-NUC」については、この記事を参照のこと。)それが、今回の部会まとめ案の結論については、「線量と関連がないことをきちんと示すことができたということではなく、大きな影響を持つ甲状腺検査の受診歴を正しく制御することができていないので、線量との関連について結論を記述することは難しいと書くべき」と不賛同の意見を譲らなかった。

「1〜4巡目の部会まとめ」について

 今回、検討委員会に提示された「1〜4巡目の部会まとめ」は、第21回評価部会に提示された部会まとめ案に、その部会での議論に基づいていくつかの小さな加筆修正がされているが、「2 疫学的解析の結果について (2)個人の推計被ばく線量を用いた解析」のパラグラフ4と5(以下のスクリーンショットの最初と2つめのパラグラフ)には大幅に加筆されており、パラグラフ6および「3 まとめ(1)疫学的解析の結果まとめ」のパラグラフ2にも、「一部の部会員」から賛同を得られなかったと付け足されている。その「1〜4巡目の部会まとめ」の加筆箇所をハイライトしたものが以下である。パラグラフ5以外の加筆内容は、第21回評価部会における祖父江氏の主張とほぼ同じである。



 また、3(1)のパラグラフ3では、部会まとめ案で「解析手法において一定の確立を見た」とされている箇所が、「現時点で考えられる最良の解析ができた」と訂正されている。

 なお、この「1〜4巡目の部会まとめ」は、今回の検討委員会で最終承認を受けたわけではないと思われる。

甲状腺検査の結果について

 今回報告されたのは5巡目6巡目の、2023年630日時点のデータである。5巡目は前回の第48回検討委員会2023年720日開催)で公表されたものから3ヶ月分のデータで、今年4月から開始された6巡目のデータは初出で、一次検査の結果のみである。

 5巡目では二次検査で5人が新たに悪性ないし悪性疑いと判定され、1人が手術で甲状腺乳頭がんと確定した。

 各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は参考資料 1 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。 

 全体的には、前回の公表データ(第 48回検討委員会で公表された参考資料 3 甲状腺検査結果の状況を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は5人増えて321人(良性1人含む)手術で甲状腺がんと確定された症例は1人増えて262人となっている。

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現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。

 註:がん登録データの43人は、2018年までの地域・全国がん登録データとの突合で見つかった人数第19回評価部会 資料2で、第16回評価部会で公表されてこの記事に収録された24人資料に、第18回評価部会で判明した3人資料と第19回評価部会で2018年データから追加された16人資料が加わっている。集計外症例35人(うち甲状腺がん19人)は、甲状腺外科医の鈴木眞一氏が2019年から国内外の学会などで報告し、「福島県立医科大学における手術症例の報告」として公表されている。データが突合されていないので実証は不可能ながら、これまで公式に集計外症例と公表されている11人(福島医大の横谷進氏らによる英語論文で報告されており、すべて甲状腺乳頭がん)も、この19人に含まれていると推定される。 

5巡目検査の結果

 2020年度から開始されている 5巡目検査は、COVID-19パンデミックによる遅延のため、通常の 2年間ではなく2022年度までの3年間で実施される予定であったが、例外に漏れず、まだ終了していない。参考として、2019年度までの実施予定だった4巡目結果の確定版は、2022年6月末時点での集計データとして、2022年度終了間際の2023年3月20日に公表された。

 2023年6月30日時点での一次検査受診者は113,937人(うち 7,960人が県外受診)と、前回から85人しか増えておらず、その半数が県外受診者であるが、結果判定率が100%とされており一次検査はほぼ終了に近いと思われる。受診率は変わらず45.0%で、4巡目の7割ほどで落ち着きそうである。年齢階級別受診率にも変動はなく、8〜11歳で74.0%、12〜17歳で 57.8%、18歳以上で11.2%である。

 二次査対象者は 47人増えて 1,346人となり、うち新たに84人が二次検査を受診し、12人が細胞診を受診した結果、5人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、5巡目での悪性ないし悪性疑いは39人となった。この 5人のうち2人は男性(事故当時年齢4歳と10歳)、3人が女性(事故当時年齢2歳、4歳と6歳)で、男性1人と女性1人が2020年度対象市町村、男性1人と女性2人が2021年度対象市町村の住民だった。5人の4巡目での判定は、1人がA1、3人がA2のう胞、1人が未受診だった。

 地域別の二次検査実施状況および結果によると、1人が避難区域等13市町村、3人が中通り、1人が浜通りの住民だった。悪性ないし悪性疑い39人のうち、6人が避難区域等13市町村、24人が中通り、6人が浜通り、3人が会津地方の住民で、一次検査受診者に対する割合はそれぞれ 0.04%、0.04%、 0.02%、0.03%だった。

 まとめると、5巡目の悪性ないし悪性疑いは39人(4巡目と同じ)となり、4巡目での結果は、A判定が27人(A1が9人、A2のう胞が17人、A2結節&のう胞が1人)、B判定が6人、未受診が6人だった。

 2020年度対象市町村から1人が新たに手術を受け、5巡目では27人が甲状腺がんと確定し、27人すべてが甲状腺乳頭がんだった。

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1〜5巡目と25歳時および30歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料 1  甲状腺検査結果の状況」の9ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)(結果確定版の2016年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人


本格検査(2巡目)(結果確定版の2020年度更新版はこちら、手術症例更新版はこちら
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      56人
(前回から 1人増)甲状腺がん 56人:乳頭がん 55人、その他の甲状腺がん**1人)                                   未手術症例     15人 


本格検査(3巡目)(結果確定版の2020年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 31(前回から変化なし)
手術症例      29人(前回から変化なし)(甲状腺がん 29人:乳頭がん 29人)
未手術症例       2人


本格検査(4巡目)(結果確定版はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 変化なし)
手術症例      34人(前回から 変化なし)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例     5人

本格検査(5巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 5人増)
手術症例      27人(前回から1人増)(甲状腺がん 27人:乳頭がん 27人)
未手術症例     12人

本格検査(6巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 0
手術症例      0
未手術症例     0人

25歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 22
手術症例      14人甲状腺がん 14人:乳頭がん 13人、濾胞がん 1人)
未手術症例     8人

30歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 3人
手術症例      1人甲状腺がん 1人:乳頭がん 1人)
未手術症例     2人


合計
悪性ないし悪性疑い 321人(良性結節を除くと320人
手術症例      263人(良性結節 1人と甲状腺がん 262人:乳頭がん 259 
人、低分化がん 1人、濾胞がん1人、その他の甲状腺がん**1人)

未手術症例***      58人(4人増)

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年 11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第 7 版    内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

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前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 71人の 1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞 25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低 2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人


3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 31人の 2巡目での判定結果 
A1判定:7人
A2判定:14人(結節 4人、のう胞 10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人


4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 3巡目での判定結果  
A1判定:6人
A2判定:20人(結節 6人、のう胞 13人、結節&のう胞 1人)
B判定:9人
3巡目未受診:4人

5巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 4巡目での判定結果  
A1判定:9人
A2判定:18人(のう胞 17人、結節&のう胞 1人)
B判定:6人
4巡目未受診:6人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 22人の前回検査での判定結果  

A1判定:1人
A2判定:4人(結節 1人、のう胞 3人)
B判定:4人
未受診:13人

30歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 3人の前回検査での判定結果  (現時点で未公表)

A1判定:0人
A2判定:0人(結節 0人、のう胞 0人)
B判定:0人
未受診:0人

メモ:2023年7月20日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、および7月28日に公表された評価部会まとめ案について


 *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。

 2023年7月20日に第48回「県民健康調査」検討委員会(以下、検討委員会)が、その8日後の7月28日には第21回「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」(以下、評価部会)が、会場とオンラインのハイブリッド形式で、いずれも4ヶ月ぶりに開催された。会議自体の公式動画(検討委員会はこちら、評価部会はこちらは福島県ホームページからアクセスできるが、議事録公表後は削除される。会議および記者会見は、Ourplanet-TVのアーカイブ動画(検討委員会はこちら、評価部会はこちらで視聴できる。

 2023年7月末で第6期の検討委員および第4期の評価部会員の2年間の任期が終了するため、今回は現行のメンバーによる最後の会議となった。備忘録のために時系列に言及しておくと、前回は3月20日に評価部会、その2日後に検討委員会という過密スケジュールでの開催であったが、その後、今までいずれも開催される気配もなく、任期終了ぎりぎりに両方が開催されたという形になる。いずれも今後のメンバーは現時点で未公表であるが、評価部会は第3・4期の計4年間の任期を通して変わらなかったので、次回は部会員の入れ替えがあっても不思議ではない。以下、まず今回の評価部会での経緯を簡単にまとめてから、検討委員会で公表されたデータをまとめる。

評価部会での経緯

 第21回評価部会では、様々な解析資料一覧についての口頭発表後、1巡目から4巡目までを総括した部会まとめ案が鈴木元部会長により読み上げられた。解析資料は評価部会の公式ページから閲覧できる。

 この部会まとめ案は、前回の3月の開催以降は何の音沙汰もなく任期終了3日前に提示されたことになる。ちなみに、2巡目の結果についての部会まとめ案は、第2期評価部会の最後の開催となった201963日の13回評価部会で公表された。第2期の評価部会は、「過剰診断 vs 早期発見・治療」をめぐる部会員同士の意見の対立が激しく、部会の主たる目的である2巡目の結果についての議論に費やす時間がなくなってしまい、やむなく鈴木部会長が部会まとめ案を作成することになったという経緯がある。そして部会中の議論およびその後の部会員らと鈴木部会長とのメールでのやり取りを経て、78日に任期終了前に開催された第4期の35回検討委員会で、同じ文面のものが部会まとめとして報告された。この時、部会まとめの内容に賛同しなかった部会員らの意見をまとめた文書も提出され、部会まとめと共に公式資料として第35回検討委員会の資料ページに残されている。

 今回の部会まとめ案の公表についての状況は、2巡目の部会まとめの時よりも異常と言える。親委員会である検討委員会への報告も、現行の委員ではなく新規の委員にされることになるが、毎回、新規の委員は時を経るにつれ膨大となる情報を消化するのに精一杯と思われる。もとより甲状腺検査に関しては、この数年の検討委員会も評価部会も、議論の場を提供しているようでありながらも肝心な臨床情報は考慮すらされず、単に「開催した」という事実を記録するためのものではないかとすら思われることが多い。

 特に評価部会は、実質、福島医大の独自解析の発表の場とされて来た。それが解析を専門とする部会員らによって「添削」され、また次の段階に進むという具合で、部会員らが検証しようにも実数も提示されないというお粗末さが目立っていた。今回の部会まとめ案の、「被ばく線量と悪性ないし悪性疑い発見率との関連の解析において、被ばく線量の増加に応じて発見率が上昇するといった一貫した関係(線量・効果関係)は認められなかった」との記述に、大阪大学の祖父江友孝部会員が不賛同を表明し、解析によってはオッズ比が上がっていないとは言えず、関連を示唆する結果と捉えた方が自然であると述べた。

 祖父江委員の意見は、「マッチングしている最大の交絡因子である受診歴がきちんとコントロールされていないため、地域を限定しない解析では関連があるように見られ、地域を限定すると関連がないように見られる。線量と関連がないことをきちんと示すことができたということではなく、大きな影響を持つ甲状腺検査の受診歴を正しく制御することができていないなので、線量との関連について結論を記述することは難しいと書くべきだ」ということである。

 部会末尾で鈴木元部会長が、その意見を「言葉が足りないという指摘」と表現した際には、祖父江部会員が、「言葉が足りないじゃなくて、ここに書いてあることに自分は賛同できない。このまま(の文面)で行くのであれば、異なる意見のある委員がいた、と記述して欲しい」と強く反論した。

 第20回評価部会で鈴木部会長は、任期終了前に部会まとめ案を確定するのは難しいだろうと発言してはいる。実質、「案」のまま次の任期の評価部会に持ち越しという形になりそうではあるが、その「案」ですら、統計を専門とする祖父江委員が賛同しない部分を含む可能性があるということになる。

甲状腺検査の結果について

 今回報告されたのは5巡目および25歳時30歳時節目検査の、2023331日時点のデータである。5巡目は前回の第47回検討委員会(2023322日開催)で公表されたものから6ヶ月分のデータとなり、20221231日時点の3ヶ月分のデータが参考資料として公表されている。節目検査は6ヶ月ごとに集計・報告されるが、25歳時節目検査は前回以降 6ヶ月分、20224月から開始されている30歳時節目検査のデータは初出である。

 5巡目では8人が新たに悪性ないし悪性疑いと判定され、10人が手術で甲状腺乳頭がんと確定した。25歳時と30歳時の節目検査では新たに3人ずつが悪性ないし悪性疑いと判定され、手術で甲状腺乳頭がんと確定されたのは25歳時で3人、30歳時で1人だった。

 各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は参考資料 3 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。 

 全体的には、前回の公表データ(第 47回検討委員会で公表された参考資料 5 甲状腺検査結果の状況を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は14人増えて316人(良性1人含む)手術で甲状腺がんと確定された症例は14人増えて261人となっている。

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現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。がん登録データの43人は、2018年までの地域・全国がん登録データとの突合で見つかった人数第19回評価部会 資料2で、第16回評価部会で公表されてこの記事に収録された24人資料に、第18回評価部会で判明した3人資料と第19回評価部会で2018年データから追加された16人資料が加わっている。集計外症例35人(うち甲状腺がん19人)は、甲状腺外科医の鈴木眞一氏が2019年から国内外の学会などで報告し、「福島県立医科大学における手術症例の報告」として公表されている。データが突合されていないので実証は不可能ながら、これまで公式に集計外症例と公表されている11人(福島医大の横谷進氏らによる英語論文で報告されており、すべて甲状腺乳頭がん)も、この19人に含まれていると推定される。 


5巡目検査の結果

 2020年度から開始されている 5巡目検査は、COVID-19パンデミックによる遅延のために通常の 2年間ではなく2022年度までの3年間で実施されている。今回報告されたのは2022年度末時点での結果であるが、まだ数字に動きがあり、これまでと同様に結果が確定するのにもう少し時間がかかりそうである。参考として、2019年度までの実施予定だった4巡目結果の確定版は、2022年6月末時点での集計データとして2023年3月20日に公表された。なお、6巡目検査は、2023年度から開始されており、従来の2年間で実施される予定である。

 2023年3月31日時点での一次検査受診者は、前回から24,758人増えて113,852人(うち 7,919人が県外受診)、受診率は前回から9.8%増えて45.0%となった。年齢階級別受診率は、8〜11歳で前回の 58.4%から74.0%、12〜17歳で 43.3%から57.8%と大きく増え、学校検査の進捗度合いが分かるが、18歳以上では 10.8%から11.2%とわずかしか増えておらず、相変わらず受診率は低い。

 二次査対象者は 298人増えて 1,299人となり、うち新たに217人が二次検査を受診し、14人が細胞診を受診した結果、8人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、5巡目での悪性ないし悪性疑いは34人となった。この 8人のうち3人は男性(事故当時年齢7歳、8歳と9歳)、5人が女性(事故当時年齢4歳、6歳、9歳、11歳と12歳)で、性別は不明だが5人が2020年度対象市町村、3人が2021年度対象市町村の住民だった。8人の4巡目の判定は、3人がA2のう胞、2人がB、3人が未受診だった。

 また今回、初めて、地域別の二次検査実施状況および結果が公表され、悪性ないし悪性疑い34人のうち、5人が避難区域等13市町村、21人が中通り、5人が浜通り、3人が会津地方の住民であることが判明したが、一次検査受診者に対する割合は各地域で 0.02〜0.03%とほぼ同等だった。

 まとめると、5巡目の悪性ないし悪性疑いは34人となり、4巡目での結果は、A判定が23人(A1が8人、A2のう胞が14人、A2結節&のう胞が1人)、B判定が6人、未受診が5人だった。

 2020年度対象市町村から8人、2021年度対象市町村から2人の計9人が新たに手術を受け、5巡目では26人が甲状腺がんと確定し、26人すべてが甲状腺乳頭がんだった。

25歳時の節目検査の結果

 2017年度から開始されている25歳時の節目検査の結果は、通常の甲状腺検査とは別に、6ヶ月ごとに公表されている。今回の報告データは2023年3月31日時点のもので1992〜7年度生まれの対象者におけるものである。受診は対象年度にとどまらず、次回の30歳時節目検査の前年まで可能で、追加の受診データも随時報告されていくことになっている。)

 今回は、2022年度に25歳となる1997年度生まれの20,296人が新たに加わり、対象者が129,007人となった。1,541人が新たに一次検査を受診し、受診率は分母の拡大により前回の9.4%から9.1%に下がった。県外受診者は4,262人である。なお、2022年度から30歳時節目検査の対象となる1992年度生まれからの受診者数は一次検査でも二次検査でも増えていない。B判定は85人増えて635人となったが、85人中74人は1997年度生まれである。新たに87人(うち1997年度生まれが53人、1996年度生まれが22人)が二次検査を受診し、計523人の受診者中 500人で結果が確定している。7人が細胞診を新たに受診し、細胞診受診者は43人となった。うち、女性3人(事故当時年齢12歳、13歳と14歳)が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、 3人とも前回検査は未受診だった。

 まとめると、25歳時節目検査における悪性ないし悪性疑い例は22人となり、前回検査は、A1が1人、A2結節が1人、A2のう胞が3人、Bが4人、未受診が13人となる。

 新たに3人で手術が施行され、甲状腺乳頭がんと確定診断された。25歳時節目検査の手術症例は14人となり、うち13人は甲状腺乳頭がん、1人は濾胞がんである。

30歳時の節目検査の結果

 2022年度からは、1992年生まれの22,626人を対象として、二度目の節目検査となる30歳時の節目検査が開始されており、今回、2023年3月31日時点での結果が報告された。一次検査の受診者は1,524人(うち県外受診者は562人)で受診率は6.7%だった。126人がB判定とされ、二次検査の対象となり、うち75人が二次検査を受診し、58人で結果が確定、うち5人で穿刺吸引細胞診を受診し、3人が悪性ないし悪性疑いと診断された。この3人については、性別が女性であること以外、公表されておらず、前回検査の結果も不明である。3人のうち1人で手術が施行され、甲状腺乳頭がんの診断が確定している。

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1〜5巡目と25歳時および30歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料 3  甲状腺検査結果の状況」の7ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)(結果確定版の2016年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人


本格検査(2巡目)(結果確定版の2020年度更新版はこちら、手術症例更新版はこちら
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      56人
(前回から 1人増)甲状腺がん 56人:乳頭がん 55人、その他の甲状腺がん**1人)                                   未手術症例     15人 


本格検査(3巡目)(結果確定版の2020年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 31(前回から変化なし)
手術症例      29人(前回から変化なし)(甲状腺がん 29人:乳頭がん 29人)
未手術症例       2人


本格検査(4巡目)(結果確定版はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 変化なし)
手術症例      34人(前回から 変化なし)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例     5人

本格検査(5巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 34(前回から 8人増)
手術症例      26人(前回から10人増)(甲状腺がん 26人:乳頭がん 26人)
未手術症例     8人

25歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 22(前回から3人増)
手術症例      14人(前回から3人増)甲状腺がん 14人:乳頭がん 13人、濾胞がん 1人)
未手術症例     8人

30歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 3人(初出)
手術症例      1人(初出)甲状腺がん 1人:乳頭がん 1人)
未手術症例     2人


合計
悪性ないし悪性疑い 316人(良性結節を除くと315人
手術症例      262人(良性結節 1人と甲状腺がん 261人:乳頭がん 258 
人、低分化がん 1人、濾胞がん1人、その他の甲状腺がん**1人)

未手術症例***      54人(変化なし)

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年 11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第 7 版    内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

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前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 71人の 1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞 25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低 2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人


3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 31人の 2巡目での判定結果 
A1判定:7人
A2判定:14人(結節 4人、のう胞 10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人


4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 3巡目での判定結果  
A1判定:6人
A2判定:20人(結節 6人、のう胞 13人、結節&のう胞 1人)
B判定:9人
3巡目未受診:4人

5巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 34人の 4巡目での判定結果  
A1判定:8人
A2判定:15人(のう胞 14人、結節&のう胞 1人)
B判定:6人
4巡目未受診:5人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 22人の前回検査での判定結果  

A1判定:1人
A2判定:4人(結節 1人、のう胞 3人)
B判定:4人
未受診:13人

30歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 3人の前回検査での判定結果  (現時点で未公表)

A1判定:0人
A2判定:0人(結節 0人、のう胞 0人)
B判定:0人
未受診:0人

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...